保健の窓

放射線 上手に使えばこわくない -切らずに治せる放射線治療-

鳥取県立中央病院 放射線科 中村一彦

放射線って安全ですか?

 この原稿を執筆している日の前日、あの東日本大震災からちょうど5年目の日を迎えた。震災は東京電力福島第一原子力発電所の事故をもたらし、多くの放射性物質が環境へ漏洩し、いまだに多くの住民が帰宅困難となっている。一昨年、「福島災害医療セミナー」に参加することができ、原発事故後の現状を目の当たりにすることができた。当日紹介したい。 世界で唯一の被ばく国である我が国は、全世界のCT装置の半分以上を所有し、国民の医療被ばく線量はOECD加盟国の中でも突出している。「心配なので念のためにCTを撮って下さい」というような声をよく耳にする一方で、「放射線治療を受けてがんになったら元も子もない」といった声も耳にする。放射線は、不安定な原子核が安定な状態に移る際に放出される粒子や電磁波のことを指し、放射線発生装置から放射されるものと、放射能を持つ物質から放射されるものとの2種類がある。病院で放射線治療を受けるときに照射されるX線は前者に相当し、原子力災害で問題となるI-131から放出されるβ線やγ線による被ばくは後者に相当する。

 

 

 

 

切らずに治せる放射線治療

 放射線治療の特徴は、治療そのものに痛みや苦しみがなく手術や化学療法後の苦痛に比べて楽であること、全身状態の悪い患者や高齢者も安心して受けられること、1回の治療時間が短く外来通院で治療が可能であり仕事や日常生活を維持しながら治療できる場合が多いこと、手術に比較して臓器や器官を切除することによるダメージや後遺症も負わなくてよいこと、等が上げられる。また、技術の進歩の結果がん細胞をピンポイントで狙える高精度放射線治療が可能となり部位によっては手術に匹敵する局所制御が得られるようになったこと、がんによる圧迫や浸潤に伴う種々の苦痛や症状を緩和することが可能であること、手術に比し相対的に医療費が安価であること、等の特徴もある。 そして放射線治療の目的は、根治的な標準治療として初回治療に選択される場合、何らかの理由で標準治療が行われない場合の根治的治療として選択される場合、病態や患者の希望により根治的治療が選択されない場合に求められる範囲でがんを縮小させるために選択される場合、緩和的治療として選択される場合、等多岐にわたる。