保健の窓

治る腰痛 つきあう腰痛

鳥取市立病院 整形外科 森下嗣威

進んで来た痛みのメカニズムの解明

 「痛い」という症状は、つらいし、いろいろな事が出来なくなってしまいます。慢性の痛みは、ある程度までなら我慢して生活できますが、日常生活が成り立たないなど大きな問題にまで発展する事もあります。  近年、痛みのメカニズムが解明されて来て、痛みにもいろんな種類があり、対処方法が違う事がわかってきました。これまでは、「痛いなら鎮痛剤」のワンパターンで治療され、内服しても良くならない経験をされた方もおられるでしょう。それが間違っている訳ではありませんが、特に慢性の痛みに対してはそれだけではいけない事が最近認識されてきています。  人は「痛み」をどこで感じているか?転んで膝を打って膝が痛い。実は、膝が痛みを感じているわけではなく、膝で起きた事が信号として神経を伝わって脳に届き、脳で痛みを感じています。すなわち、痛い場所だけではなく、途中の神経、脳に至るどこかに異常が起きても脳は「痛み」を感じてしまいます。  さらに、痛みの強さの程度には「心の問題」が大きくかかわってきます。おおらかで幸せな時は多少の痛みにも寛容でいられます。しかし、心配や不安が強い時は、少しの事でも気になり痛みも強く感じます。

 

 

 

治る腰痛、つきあう腰痛

  患者「先生、腰が痛いんですけど。」医師「少し休んでおけば治るから、薬を出しておくね。」幾度となく繰り返される会話です。確かにこれで治る患者様はたくさんおられます。しかし、この会話を聞き飽きた方も中にはおられるでしょう。 痛みの治療には、その痛みの元を治療する事で神経に痛み信号が出なくなり治るものと、痛み信号が伝わる経路の異常を治療して痛みを軽減させるものがあります。急性腰痛症(いわゆるぎっくり腰)は前者の治療になります。それに対して慢性腰痛症の場合は前者と後者の両方とともに、心の問題も考えなくてはいけません。 慢性腰痛症の患者様は、「痛みを完治(ゼロ)したい。」「全く痛みの無い元の生活がしたい。」と希望されます。一方医師はその医学的見地から、「痛みは軽減させることは出来ても、ゼロには出来ない。」「痛みがあってもある程度の生活が維持できる事が大切だ。」と治療の目標を定めます。治療のスタートラインから大きなずれが生じているので、ある程度治療効果があったとしても、「病院へ行っても治らない。」と判断し治療を中断したり、民間療法に通う患者様がいらっしゃいます。 自分の痛みの病態、治療方針、治療目標を主治医とよく話し合い、共通の認識の上で治療を進めて行く事が大切です。