保健の窓

怖い生活習慣病―特に動脈硬化症について―

鳥取産業保健推進センター 産業医学担当相談員 山家 武

 

動脈硬化症とはどんな病気なのでしょうか。

動脈は全身に酸素と栄養を届ける役割をしており、若くて健康な血管はしなやかで、血管の内側はきれいです。ところが加齢により、血管の壁を構成している線維が増えて血管の壁が厚くなり、弾力性を失い、硬くなります。加えて、種々の危険因子により病的な変化「動脈の硬化」が生じます。この危険因子には、コントロール不可能な要素とコントロール可能な要素とがあり、コントロール可能な要素とは、高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、ストレスなどの生活習慣から来るもので、いわゆる生活習慣病といわれるものです。

動脈硬化症は全身のあらゆる動脈で起こります。命にかかわる心筋梗塞や狭心症などの心臓病や、脳出血や脳梗塞などの脳卒中をもたらし、生命予後やQOL(生活の質)を阻害することとなります。その動脈硬化を起こす大きな原因の一つが、いろいろな生活習慣病の中でも、特に、血中に中性脂肪やコレステロールが異常に増加する高脂血症です。

いま少し高脂血症と動脈硬化症の病態をお話ししましょう。血中には4つの脂質があります。厄介者の印象があるコレステロールと中性脂肪、他にリン脂質、遊離脂肪酸です。そのどれもが、健康な体に不可欠な役割を果たしていますが、コレステロールと中性脂肪は増えすぎることで高脂血症の引き金となります。血中の中性脂肪やコレステロールの増加が主な原因となって起こる動脈硬化は、「粥状(じゅくじょう)動脈硬化」といわれます。これは余分な脂質(悪玉コレステロール)が血管壁に入りこみ、塊をつくり、血管内腔を狭くして血液の流れが止まり梗塞を生じます。粥状(じゅくじょう)動脈硬化は心臓の周りの冠動脈や、脳動脈、腎動脈、頚動脈などに起こりやすいので非常に危険度の高い動脈硬化とされています。


 

今回は特に日本人の死因の約3割を占めるといわれる、心臓病や脳卒中についてお話しします。

心臓に酸素や栄養を運んでいる冠動脈の硬化が原因で、血液が十分流れない状態、つまり虚血状態になったときに起こる病気を虚血性心疾患といいます。その代表的なものは狭心症と心筋梗塞です。狭心症には何か動作をしたときに起こる労作性狭心症と何もしていないときに起こる安静時狭心症の二つがあります。一方、心筋梗塞は冠動脈に血栓がつまり、その先へ血液が行かなく心臓の筋肉が壊死(えし)してしまう病気です。心臓の動きが制限され危険な状態となります。中性脂肪やコレステロール値が高く、家族に心臓病の人がいると特に注意が必要です。

脳の血管が詰まったり、破れたりして起こる脳の障害を総称して脳卒中といいます。すなわち脳梗塞と脳出血です。以前は高血圧の治療薬が少なく、栄養不良で血管自体ももろかったため、脳出血が多かったのですが、現在は高脂血症や糖尿病の増加により脳梗塞が多くなっています。脳梗塞には脳血栓と脳塞栓があります。脳血栓は脳の動脈硬化によって内腔が狭くなった部分の血流が悪くなり、徐々に血栓ができて血管が詰まり、その先に血液が流れなくなり脳組織が壊死(えし)を起こします。脳塞栓は心臓など脳以外の血管内にできた血液の塊が脳の血管の狭くなった部分に詰まるものです。脳動脈の血流が一時的に途絶え、数分から1~2時間で回復する脳梗塞、いわゆる一過性脳虚血発作です。脳梗塞の前触れ発作と言われています。

このように、怖い動脈硬化を引き起こす生活習慣病に罹患しないための対策は、簡単なことではないが、日頃から生活習慣に気を配ることです。そのあたりをお話したく思います。