保健の窓

増え続ける糖尿病-その克服に向けて-

鳥取県医師会常任理事 富長将人

 

近年糖尿病は増え続けており、これを克服することが急務とされています。糖尿病の克服の意味は2つあります。ひとつは糖尿病の発症を予防することであり、他のひとつは、既に糖尿病になった人が合併症を生じないようにうまくこれを管理することです。糖尿病の発症には遺伝的な因子の関与もありますが、それだけで発症するのではなく、誰でも糖尿病に罹患する可能性があります。従って、糖尿病を克服するには日本国民全ての人が糖尿病に関心を持ち、その克服に立ち向かう必要があるといえましょう。

糖尿病を克服するには糖尿病をよく理解することが必要です。そこで、糖尿病とはどういう病気かを簡単にまとめてみます。

糖尿病とは、血液中のブドウ糖濃度(血糖)が高いという状態を言います。ブドウ糖は全身の細胞が生きて活動するのに必要なエネルギー源ですが、細胞が血液中のブドウ糖を取り込んで利用するにはインスリンというホルモンが必要になります。糖尿病ではこのインスリンが膵臓から充分に分泌されなくなったり、インスリンがあっても本来の働きをしにくい状態があって、血液中のブドウ糖を細胞が取り込めないために血液中にブドウ糖が沢山溜まった状態(血糖値が高い状態)になります。

このような状態が長く続くと、神経障害で足がしびれたり、網膜症で失明したり、腎症で人工透析が必要になったりします。その他に動脈硬化症が進み、脳梗塞や心筋梗塞が引き起こされることになります。血糖値が高い状態を放置した場合、何も症状が無いことが多いのですが、10年後、20年後にはこのように大変なことになるのです。

次回は、このような糖尿病を克服するにはどうすればよいか、を考えてみることと致します。


 

糖尿病の治療は、食事療法と運動療法が基本になります。食事は、色々な栄養素をバランスよく、その人にとって必要な量を摂取して、余分には食べないようにする、これが糖尿病の食事療法です。次に、運動療法ですが、前回、糖尿病の病態としてインスリンが働きにくい状態がある、と申しました。運動するとインスリンが効率よく働くようになり、エネルギーも消費して血糖を下げることになります。このような食事療法と運動療法は、糖尿病でない人にとっては、糖尿病の予防に必要なものなのです。

糖尿病者の場合、食事療法と運動療法をきちんとしても血糖値が充分に下がらない場合は、薬の服用やインスリン注射が必要になりますが、その場合も、食事療法と運動療法をおろそかには出来ません。食事療法をきちんとしないで薬を服用した場合、糖尿病は良くならないばかりか逆に悪化することすらあります。

一口に糖尿病といっても色々な糖尿病があります。重症の糖尿病と軽症の糖尿病に分けると、前者は、発症した早い段階で薬物が必要であり、後者は食事療法だけでコントロール出来る期間が比較的長いといえますが、実際に合併症が進行し、透析が必要になるのは後者、すなわち元々は比較的軽い糖尿病であった人が多いのです。重症の場合は血糖が高いとやせることが多く、比較的早い時期に医療機関を受診しますが、軽症の場合は肥満傾向の人が多く、血糖がかなり高くても自然にやせてくるまでに長期間を要し、その間放置されることが多い、というのがその理由です。

糖尿病は悪化しても殆ど症状がありません。従って、糖尿病者は定期的に検査を受けることが必要であり、糖尿病でない人は、糖尿病が発症していないかどうか検診を受けることが大切です。