保健の窓

加齢と眼疾患

鳥取大学医学部視覚病態学教授 井上幸次

(上)~白内障

年齢が進むにしたがっていろいろな目の疾患がおこってきますが、もっとも多いのが白内障でしょう。白内障は目のレンズの働きをしている水晶体に濁りを生じてくる疾患であり、そのため、眼内へ入る光が妨げられ、ものがぼやけて見えるようになります。多くの高齢者の方には少しは水晶体の濁りがあるので、「あなたは白内障ですね」と言われても、まったく心配する必要はありません。初期の白内障はあまり自覚症状もなく、そのままほとんど進行しない人も多いからです。

白内障が進行してきた人の場合は、濃淡がわかりにくい、全体にぼやける、遠くも近くも見にくいなどの症状が出てきます。進行予防の点眼薬はありますが、その効果はさほどではなく、また一旦濁った分を改善する効果もありません。そのため進行してくると手術が必要になるわけですが、白内障の手術は、ヒトに行われる手術の中でもっとも有効性が高く、もっとも安全な手術の一つですので、むやみと心配して手術を受けずに不自由なまま放置するのは得策ではないでしょう。

特に現在は超音波で水晶体を破砕して吸引し、除去した水晶体の代わりに人工のレンズを入れるのが標準的な術式となり、キズ口も3mm程度ときわめて小さく、その有効性・安全性が更に高まっています。そのため、術後早期に視力が回復し、患者本人にとってひじょうに負担の少ない手術です。しかし、回復が早いと、つい油断してしまいますが、術後、目を不潔にしたりぶつけたりすれば折角きれいに行われた手術に悪い影響が出る可能性があります。術後は医師の指導に従って点眼を含めてきちんとした管理をおこなっていくことが大事でしょう。

(下)~緑内障

眼球は一定の形と機能を保つためにある内圧をもっており、これを眼圧といいます。そして、この眼圧が高くなって視神経が障害され、視野が狭くなる病気がすなわち緑内障でした。ところが最近の考え方では、眼圧が低くても視神経が弱くて視野が狭くなる人はやはり緑内障と考えられ、正常眼圧緑内障といわれています。最近の調査では、このような正常眼圧緑内障の人の方が、眼圧が高い緑内障の人よりも多いという結果が出ています。緑内障は眼圧が高い病気とはもはや言えなくなっているということです。

眼圧が急にあがると眼の痛みばかりでなく、頭痛や吐き気を自覚することもありますが、そのようなケースは少数で、多くの緑内障の人はこれといった症状がありません。また、視野や視力の障害について自覚するのは緑内障がかなり進行した一部の人だけです。

緑内障は眼圧が高い病気とは言えなくなっているのですが、治療については眼圧を下げることがとても重要です。ですから、正常眼圧緑内障の人では更により低い眼圧を目標に治療を行うことになるわけです。最近は眼圧をさげる多くの種類の点眼薬が開発されており、これらを使用しますが、それでも視神経の障害が進行する場合は目の中の水の眼外への流出を増加させる手術が必要になります。

以上のように、緑内障は無自覚なことが多いので、検診や眼科受診によって眼底検査・眼圧検査を受けることが重要でしょう。そして、緑内障と判明すれば、視野狭窄が進行しないよう恒常的に眼圧を下げる治療が必要となります。緑内障は早期に発見して長期にわたって管理していく病気であるといえます。