保健の窓

初期療法で重症化防ぐ-花粉症の最近の話題-

鳥取大学医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科准教授 竹内裕美

 

日本人の2000万人以上が悩まされているスギ花粉症は、社会的な影響も大きく、現在では重要な国民病の1つとなっています。シーズンが近づき、今年の花粉の飛散が気になる時期になりました。総飛散花粉数は、前年の夏の天候に左右されます。日照時間が長く、高温で雨量が少ないと花粉数が多くなります。昨年7月は日照時間が短く雨量も多かったため今年の山陰地方の花粉数は少ないと思われます。NPO花粉情報協会の予測でも、今年の中国地方の花粉数は昨年の50%程度と少なく、飛散開始は2月下旬とのことです。もし、この予測が当たれば、スギ花粉症の人にとって今年は過ごしやすい春となります。

少し長い眼で今後のスギ花粉症の動向をみますと、患者数は今後30年間増加し、現在の1.4倍になると予測されています。スギ花粉の飛散は2月中旬から3月下旬で、4月初旬からゴールデンウィークの頃までヒノキ花粉が飛散します。スギ花粉症の人の多くはスギと近縁のヒノキ花粉でも症状が出ます。特に西日本では東日本にくらべヒノキ花粉が多く、さらに今後も増加する傾向にあるため、今後はヒノキ花粉への対応が必要となります。

春はスギ花粉のほかにも黄砂が飛来します。中国や韓国では黄砂による健康被害が社会的な問題となっています。スギ花粉症の患者さんを診ていると、黄砂が飛来すると花粉症症状が増悪する患者さんが少なくありません。鳥取県衛生環境研究所との共同研究で、黄砂によってスギ花粉症症状が悪化する症例があることを確認しています。特に、シーズンの後半では花粉より黄砂の影響の方が強いことがあります。


 

スギ花粉症は、患者数の増加のほかに患者の低年齢化が注目されています。以前は、花粉症は30歳代に発症する大人の病気と考えられていましたが、最近では小学生の花粉症も珍しくありません。また、小児の場合、スギ花粉だけではなく、イネ科などのほかの花粉や家塵・ダニなどの複数の抗原に敏感なことが多いのが特徴です。花粉症は成長に伴って自然に治癒することは殆どないため、花粉症になるのを予防することが最良の方法なのですが、現在のところ有効な予防法はありません。

治療としては、花粉症グッズや健康食品などによる セルフケアと医療機関での薬物治療の2つに分けられます。健康食品に関しては、スギ花粉症の約70%の人が何らかの健康食品を使用しているとの報告もあります。ヨーグルトなどの乳酸菌食品の摂取による腸内細菌のバランスの改善がアレルギーに効果があることが最近の研究で確認されています。逆に、昨年、スギ花粉入りの健康食品を摂取した後に呼吸困難と意識消失を生じる事故も起こっています。現在、効果が科学的に証明された健康食品は多くないため、摂取にあたっては十分な注意が必要です。

花粉症の治療ガイドラインでは、症状の重症化を防ぐために、花粉が飛び始める2週間くらい前から治療薬を服用することが勧められています。これを初期療法と言います。初期療法では抗ヒスタミン薬が用いられることが多く、最近はこの薬の副作用である眠気の少ない抗ヒスタミン薬が主流となっています。特に車の運転や機械操作に従事される人は、市販の薬ではなく医師と相談して適切な薬の処方を受けることが大切です。