保健の窓

冬季に多い高齢者の呼吸器の病気とその対策

鳥取赤十字病院神経内科副部長 山本光信

 

冬季に多い呼吸器の病気としては、かぜと肺炎があります。西欧では昔から「インフルエンザは高齢者の最後のともしびを吹き消す」とも言われ、その対策は非常に重要です。近年、ワクチンや新しい薬が出てきており、これらをうまく利用する事によって厳しい冬をうまく乗り切りたいものです。

(1)普通感冒

いわゆる鼻かぜで、インフルエンザウイルス以外の病原体によって引き起こされるものです。症状としては鼻水、のどの痛み、頭痛、微熱などです。原因となる病原体には多くの種類がありますが、ほとんどがウイルスです。インフルエンザと比べると症状が軽く、命にかかわることはまれです。これらは咳やくしゃみの中にいる病原体を直接吸い込んだり(飛沫感染)、手についた病原体を介してうつります(接触感染)。したがって予防には、マスクやうがい、手洗いが有効です。原因であるこれらのウイルスに直接効果のある薬はなく、安静や解熱剤などの投与による対症療法が治療の中心となります。もちろん抗生剤も無効です。

(2)インフルエンザ

インフルエンザウイルスと言う病原体によって起こるかぜで、急激な高熱で発症し、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛などの全身症状が強いのが特徴です。しばしば大流行を起こし、その年によって流行する型が異なります。飛沫感染及び飛沫核感染(空気感染)によって人から人にうつります。飛沫核感染とはウイルスを含んだ微小な粒子(飛沫核)が長時間空気中に浮遊し、これを吸い込むことでうつるものです。この飛沫核はマスクの線維を素通りするためにマスクの着用では感染を防ぎきれません。 次回はインフルエンザの予防と治療及び肺炎についてお話します。


 

前回はインフィルエンザの感染はマスクなどでは防ぎ切れない事をお話しましたが、インフルエンザの予防に最も有効な手段はインフルエンザワクチンの接種です。特に高齢者などの抵抗力の低下した人に対するワクチンの有効性は確立されていますが、必ずしもワクチンを接種すればインフルエンザにかからないわけではなく、かかっても症状が軽く済んだり、死亡する人の数を減らすと言う事です。

また残念ながらインフルエンザにかかってしまった場合、現在ではインフルエンザウイルスに直接効果のある薬が開発されています。これはアマンタジンやノイラミニダーゼ阻害薬という薬で、いずれもインフルエンザの症状を軽減し、回復を早めます。但し、発病してから48時間以内に使用を開始しないと効果がありませんので、かかったと思ったらすぐに医療機関に行く事が重要です。

(3)肺炎

インフルエンザなどのかぜにかかると抵抗力が低下し、2次的に細菌感染による肺炎を起こしやすくなります。肺炎の治療は抗生剤の投与によって原因である細菌をたたく事が中心となります。肺炎の原因となる細菌には色々ありますが、なかでも肺炎球菌が重要です。この菌はもともと鼻の奥やのどなどに住み着いており、抵抗力が低下した時に肺炎を引き起こします。現在この肺炎球菌に対する抵抗力を高める肺炎球菌ワクチンの使用が可能です。但し、このワクチンも接種すれば肺炎にかからないわけではありませんが、症状を軽くしたり、死亡する人を減らす効果があります。1回接種すれば5年間程効果が持続します。しかし今のところ、この肺炎球菌ワクチンは自治体によっては公費補助がありますが、大部分は自費での接種です。