保健の窓

冬季における高齢者の呼吸器疾患

鳥取大学医学部統合内科医学講座分子制御内科学分野教授 清水英治

 

冬季は気温が下がり、空気が乾燥しますので、呼吸器の病気、特に呼吸器感染症が増加します。高齢者、喫煙者、喘息、肺気腫、慢性気管支炎、肺線維症、塵肺などの慢性の呼吸器疾患をもつ方は呼吸器感染症を契機に病気が悪化したり、時には生命を脅かすこともあります。風邪、急性気管支炎、肺炎などを総称して呼吸器感染症といいますが、細菌、マイコプラズマ、クラミジア、ウイルスなどの微生物が原因となります。

ウイルス感染ではインフルエンザが最も重要で、冬から春にかけて香港A型、ソ連A型、B型の流行がみられています。インフルエンザに対しては抗ウイルス薬のタミフルが開発されましたが、他のウイルスには確実な治療薬はありません。最近、東アジアで鳥インフルエンザの人への感染が報告されており、新型インフルエンザの流行が懸念されています。普段からの予防が重要で、冬季は人混みを避け、マスク装着、手洗いの励行に気をつけましょう。栄養も重要で、バランスのよい食事に心がけ、深酒や夜更かしを避けましょう。糖尿病の方はコントロールを良くして、抵抗力が落ちないように気をつけてください。

インフルエンザよる肺炎やウイルス感染に続発する肺炎球菌など細菌による肺炎も起こり易くなり、インフルエンザが流行した年は肺炎による高齢者の死亡率の増加がみられます。積極的な予防策として予防接種があります。高齢者や慢性の呼吸器疾患をもつ方は、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを受けることで、重症化を避けることができます。

高齢者の肺炎では発熱、咳、痰などの呼吸器症状がなく、元気がない、食欲がないなどの症状で、肺炎が疑われないこともあり、注意が必要です。


 

冬季に呼吸器感染症が増加し、高齢者では特に注意が必要であることを前回お話ししました。重症の呼吸器感染症で緊急入院される高齢者はCOPDを基盤としていることが多いのです。COPDとは慢性閉塞性肺疾患の略で、肺への空気の出し入れが慢性的に悪くなり、ゆっくりと悪化していく病気で、これまで慢性気管支炎や肺気腫と言われていました。咳や痰が毎日のように続いたり、階段の上り下りなど体動時に息切れを感じます。世界保健機関の統計では、COPDは世界の死亡原因の第4位であり、日本においてもCOPD死亡数は年々増加しています。日本には約530万人の患者さんがいると推定されていますが実際には病院を受診されている患者さんの数はこの10分の1以下です。

COPDは長期の喫煙と関係の深い病気で、禁煙が一番有効です。症状がなくても喫煙高齢者は肺機能検査を受けてできるだけ早期にこの病気を発見し、正しい治療を受けて悪化を食い止めることが重要です。そうすれば呼吸器感染症のリスクが低くなり、感染した場合でも重症化する危険性が低下します。風邪から急性気管支炎や肺炎を併発し、重症の呼吸不全状態となり緊急入院してはじめてCOPDと診断される方もいます。風邪やインフルエンザにより気管支喘息も悪化しますので、冬季に注意したい病気です。喘息発作時には呼吸、特に吐く息の流れが妨げられ、苦しくなります。普段からの吸入ステロイドなど適切な治療を受ける必要があります。

肺炎は病原微生物が肺の一番奥にある肺胞にまで入り込み、増殖し、肺の組織を侵す病気です。肺炎の主な症状は咳、熱、悪寒、胸痛、喀痰、呼吸困難などですが、高齢者では熱や呼吸器症状がなく、食欲不振や元気がないなどの症状のみが前面にでることがあります。抗菌薬によって、細菌性の肺炎の多くは治療がしやすくなりましたが、それでも日本人の死亡原因の第4位であり、高齢者では致命的な病気となることもあるので注意が必要です。