保健の窓

冬場の感染症

中部医師会員 引田 亨

~カゼ・インフルエンザ~

冬場の感染症には主要なものとして、カゼ(普通感冒)、インフルエンザがあります。

そしてインフルエンザの合併症として肺炎も重要です。カゼは大部分がウイルスにより発症しますが、マイコプラズマ、クラミジアなども原因となります。症状は鼻水、鼻づまり、くしゃみ、喉の痛み、咳、発熱、だるさなどです。カゼは保温、休養、栄養といった一般的な養生と対症的な治療で数日で良くなります。一方、人から人に流行し、低温で乾燥する冬場に多発するインフルエンザにはA型、B型があり高熱、悪寒、頭痛、関節痛、全身のだるさ、下痢、食欲不振等の全身症状が強くあらわれます。特に、抵抗力のおちた高齢者にとっては肺炎、気管支炎が続発し命とりになることもあり恐ろしい感染症です。

カゼとインフルエンザには類似点も多く、医療機関では診断を確実にするため診断キットを使います。綿棒で鼻やのどの粘液をとり、試薬に溶かし、A型かB型かのウイルスの区別を30分位で判定しますが、ウイルス量の少ない時には陰性のこともあります。

インフルエンザの治療にはその増殖を抑えるタミフルが処方されますが、発症して48時間以内に使うのが原則です。ウイルスは咳やくしゃみで飛び散りますので周りの人にうつさないためマスクやうがい、手洗いが大切です。発症して3~7日間はウイルスが排泄されますので、熱が下がっても2~3日は自宅での休養も必要です。インフルエンザの予防は何といってもワクチン接種(1~2回)です。ワクチン接種後2週間で抗体ができ、約5ヶ月間は予防効果があります。この冬場も無事に過すため病医院で12月上旬までにはすませましょう。

~ノロウイルスによる急性胃腸炎~

前回はカゼ、インフルエンザについて述べました。今回は冬場の腸管感染症について述べます。冬場に下痢、嘔吐がみられる場合ノロウイルスによる感染が疑われます。ノロウイルスは生ガキなど貝類の内臓に蓄積し、生ガキによる集団食中毒をよく起こします。1972年に発見されノーウオークウイルスと命名されましたが、2002年に分類名がノロウイルス属と決定されたことから、一般にノロウイルス(以下ウイルス)とよばれるようになりました。ウイルスは患者の吐物や便に含まれ、下水を通じて河川、海へと流れ貝類に蓄積され、冬場に貝類を生で食べる機会が多くなり、冬場に感染が多くなると考えられています。

ウイルスに感染しますと24~48時間後に激しい腹痛、嘔吐、下痢、38℃以下の発熱を起こします。症状の強さは人により異なりますが、感染力は強力で抵抗の弱い人が感染すると重症化します。医療機関や高齢者施設での集団感染は耳目を引きました。ウイルスは85℃で1分間以上に加熱すれば感染力はなくなりますのでカキは「生食用」として売られているもの以外は新鮮なものでも生で食べるのはやめましょう。ウイルスの感染源となったと考えられる調理器具はよく洗い、熱湯や塩素系の消毒剤でよく消毒します。ウイルスの感染力は非常に強いので手洗いはこまめに行い、便器やトイレのノブは塩素系の消毒剤の消毒が有効です。

ウイルスに感染した人は下痢の続く間は入浴を控え、症状が改善しても家族の中での入浴は最後にし、調理もしばらく控えた方が良いといわれます。これから冬場に向けて忘年会もありますが、下痢、嘔吐には注意し、貝類の生食は控えて下さい。