感染症は、「病原体」が体に入り増えた場合に引き起こされる病気です。いいかえれば、病原体が体に入らない限り感染症という病気にはなりません。それでは、どういう機会に病原体と出合うのでしょうか。
ウイルスなど病原体の多くは、人から人へと伝播するものです。運悪く感染した人を暖かく見守り治癒してもらうのはもちろんですが、感染していない人への二次感染を防ぐ必要があります。冬場は、一日中窓やドアが閉められがちです。その結果、空気の流れが滞ることになります。そして、人から人へと病原体が伝播する環境が整います。
学校や職場に登校・出勤する経路、学校や職場での活動、帰宅経路を想像してみましょう。混雑し遮蔽された空間に居合わせる場面は、どれくらいあるでしょうか。
感染症の重要なサインは、「発熱」です。熱が出たら無理をせず、早めに近くの医院を受診して下さい。ただし、乳幼児・高齢者の方々は「発熱」以外にも「おかしい」と思ったら早めの受診が大切です。
前回、「遮蔽空間・混雑」の場面で病原体と出合うことが多いと申し上げました。そして、学校や職場に登校・出勤する経路、学校や職場での活動、帰宅経路を想像することをおすすめしました。
「遮蔽空間・混雑」の場面では、マスクの着用をおすすめします。それも「不織布マスク」がおすすめです。スーパーや薬店の店頭で手に入ります。その後は、「うがい」と「手洗い」がおすすめです。例えば、学校や職場に着いた後、帰宅後にされると効果的です。
インフルエンザの予防についてマスクと手洗いの効果を確かめた調査があります。一日平均3.5時間マスクを着用し、いつもよりも手洗いに気をつけた場合、どのくらいインフルエンザの症状を避けられたかを評価したものです。この6週間の調査によれば、マスクによって3割程度の人が、また、マスクと手洗いによって4割程度の人がインフルエンザにならないで済んだという結果でした。この予防効果の割合は、調査のしかたによっては多少の違いがでるかもしれません。しかし、少なくともかなりの効果が証明されていることに注目したいと思います。「うがい」もまた、効果が確認されています。
ウイルス感染症の患者さんは、医師の診療を受けてから静かな環境で十分な栄養と睡眠をおとり下さい。家族の方々は、病原体を避けられるように、使い捨ての手袋とマスクをご準備下さい。
家庭で患者さんの介護をされる際には、まず患者さん・介護者ともにマスクを付け、介護者は手袋をします。次に窓やドアを開け、空気の入れ換えを数分間行いましょう。こうして、介護者が患者さんの飛沫を吸入するのを防止します。患者さんの使用したシーツなどのリネン類は、漂白剤を加えて洗濯することがおすすめです。漂白剤には消毒効果があります。消毒効果は酸素系よりも塩素系の方がすぐれています。マスクや手袋には隙間が開きがちです。介護の最後には、「手洗い・うがい」を心がけましょう。
嘔吐物や血液の消毒にも塩素系の漂白剤はすぐれた効果を発揮します。吸湿性のよい紙を何枚か重ねて嘔吐物や血液を覆い、それに塩素系漂白剤をしみ込ませて30分待ちます。そのあとは、手袋を使用してゴミ袋に入れ一般ゴミに出せばよいでしょう。市販の5%漂白剤であれば50倍程度に水道水で希釈して使用するのが理想的です。漂白剤容器の使用説明文をぜひ一度読んでみて下さい。
2009年に、「新型」と呼ばれたインフルエンザの流行がありました。過去に得た抵抗力が無効かもしれないと怖れられました。確かに、そのとおりでした。しかし、運悪く感染した場合でも、感染に遅れて作られる抵抗力によって、体の中で少し増えたウイルスが駆逐されました。多くの場合は短期間に治癒できたということです。
今では、大部分の人が抵抗力をもち、万一再び暴露されてもウイルスが増えにくい体になっています。しかし、ウイルスは「顔」を少しずつ変えることによって、われわれの抵抗力をすりぬけ増えようとします。そのために、毎年流行するウイルスにあわせて、抵抗力を万全にする必要があります。予防接種が毎年必要な理由です。世界中を毎年一周する3種類のインフルエンザウイルスの動向を先読みして、ワクチンは作られます。今年の流行に備えてぜひ予防接種をお済ませ下さい。ただし、蓄えられた抵抗力は、ウイルスが少し増えた後に発揮されます。そのため、ウイルスの増殖を少しの間許してしまい、熱がでることがあります。しかし、予防接種をしている場合には、発熱後の早い時期にウイルスの増加が抑えられ、重症化を避けられる大きな利点があります。