保健の窓

冬に流行するウイルス感染症

鳥取県立中央病院内科部長 杉本勇二

-インフルエンザ- 「予防接種を受けましょう」

スペインかぜ、ソ連かぜ、香港かぜなどの言葉がありますが、これはインフルエンザが世界的に大流行したときにつけられたものです。かぜと名前がついていますが、インフルエンザとかぜ(普通感冒)は異なるものです。インフルエンザはインフルエンザウイルスの飛沫感染により、突然発熱を伴う全身症状で発症し、心臓や肺にもともと病気がある高齢者などは合併する肺炎などにより重症化し、亡くなられる場合もあります。

最近では鼻やのどぬぐって30分程度の短時間で診断し、抗インフルエンザウイルス薬の投与が可能になりましたが、それでも大切なのは予防対策です。マスクの着用、うがいや手洗い、室内の加湿など有効ですが、インフルエンザワクチンの予防接種が重要です。予防接種を受けないでインフルエンザに罹患した人の70%は、予防接種を受けていればかからずにすむか、かかっても症状が軽くてすみます。ウイルスに対する免疫がつくまでに約2週間かかるので、流行する前に早めに予防接種をうけることが勧められます。ワクチンはその年に流行すると予想されるウイルスを推定して製造されますが、異なるタイプの株が流行すると効果がない場合もあります。またインフルエンザ以外のウイルスには効果がありません。

インフルエンザウイルスは大きく抗原性(型)が変わり、ほとんどの人が免疫を持たない状況で世界的に大流行を繰り返した歴史があります。今ヒトと鳥のインフルエンザウイルスが交じり合うことで、ヒトへの感染性と高い病原性を持つ新型インフルエンザの出現が危惧されており、これを封じ込めようと努力がなされています。

-手洗いで感染性胃腸炎予防-

寒くなってきて感染性胃腸炎が増えてきました。夏は細菌による感染性胃腸炎が多くみられますが、寒くなるとウイルスによるものが流行します。11月から12月にかけてノロウイルス、2月から4月ごろにかけてロタウイルスによる感染性胃腸炎のピークがみられます。

ノロウイルスは生で二枚貝など食べることによる食中毒が知られていますが、老人施設などで流行することもあります。一般には軽症ですが、高齢者などでは時に生命に危険をおよぼします。ロタウイルスはほとんどの人が小児期に感染するウイルスですが、脱水により入院しなければならなくなることもあります。先進国での死亡例はわずかですが発展途上国では年間70万人もの子供の命が奪われています。

二つのウイルスに共通する症状は嘔吐、下痢、腹痛などですが、ロタウイルスでは高熱を伴うことが多く、白色の下痢便を生じます。保育園や、学校などで流行しますが、家庭内で経口感染により広がることもあります。このウイルスに特効薬はありませんので、脱水を防ぐため水分を十分に摂ることが重要で、また貝などは熱を通すことで安全になります。

予防には食事前や料理の前などに時間をかけて手洗いすることが大切で、手ぬぐいタオルの共用はなるべく避けましょう。少量のウイルスでも感染しますので、便の処理の際やトイレのノブなどから広がることがあります。感染性胃腸炎に限らず感染予防において、手洗いは家庭内のみでなくどこでも基本となります。指先や指の間などは洗ったと思っても意外とできていないもので、うがいとともに習慣にしてみましょう。