保健の窓

健康長寿を妨げる生活習慣病-糖尿病、高脂血症について-

鳥取大学医学部保健学科教授 池田 匡

 

日本は世界一の長寿国となりましたが、だれもが健康を維持したまま長寿になっているかというとそうではありません。介護保険もスタートしましたが、寝たきり高齢者が120万人、虚弱高齢者を加えると280 万人も存在するという現状をみますと、本当に長寿を喜んで良いものかどうか考えさせられるものがあります。寝たきりなどをはじめとして高齢者の健康を妨げている原因疾患をみますと、脳卒中を代表とする動脈硬化性疾患が非常に重要な位置を占めています。動脈硬化といえば、徐々に動脈が細くなり血液の流れが悪くなってくる病気ですが、その原因疾患としては高血圧、糖尿病、高脂血症の3つが代表的なものです。なかでも糖尿病と高脂血症は最近の増加が著しく、糖尿病にいたっては40歳以上の成人7~10人あたり1人の頻度と推定され、今や国民病ともいわれるようになってきました。

この2つの疾患の増加は日本人の生活習慣が欧米化してきたことと強い関係があり、なかでもアンバランスな食生活や運動不足などが主要な原因であることから生活習慣病の代表といってもよいでしょう。健康長寿を全うしていくためには、糖尿病や高脂血症といった生活習慣病の予防と管理が非常に大切となってきますが、糖尿病にしろ高脂血症にしろ、重大な合併症が出てくるまでは数年から十数年にわたり全く無症状に経過することが多く、ややもすると自己管理がいい加減になってしまい、定期的な通院や検査を怠り、結果として脳卒中や虚血性心臓病(狭心症や心筋梗塞)を引き起こし、不自由な生活を強いられることになります。健康長寿を全うするために、糖尿病、高脂血症と生活習慣について少し考えてみましょう。

 

中年以降にみられる糖尿病の多くは、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)がその発症に重要な役割を果たしています。不適切な食事(高カロリー、高脂肪食)や運動不足によりインスリン抵抗性が強くなり、それとともにインスリンの分泌低下も生じてきてついには糖尿病を発症し、さまざまの合併症を引き起こしてくるようになります。

糖尿病とはいえないけれど少し血糖が高い状態(境界型)も、インスリン抵抗性を伴い動脈硬化を起こしやすいので糖尿病に準じた管理が必要となります。高脂血症には、コレステロールが高い、中性脂肪が高い、あるいは両方とも高い場合がありますが、いずれも動脈硬化の促進因子です。閉経後の女性では、女性ホルモンの欠乏によりコレステロールが高くなっていることが多く、動脈硬化が進行しやすくなることが知られていますので特に注意が必要です。高脂血症の予防や管理のためにも生活習慣の見直しが必要であり、コレステロール摂取の制限や運動により高コレステロール血症がある程度改善しますし、高中性脂肪血症は、男性ではアルコールや肥満が、女性では甘いものの多食や肥満が原因になっていることが多いようです。

糖尿病も高脂血症も無症状に経過することが多く、経過の良否をチェックするためには定期的な検査を欠かすことができませんので、主治医と2人3脚で気長に付き合って行く必要があります。健康な生活を維持していくことは長寿であるがためになかなか難しいことでもあります。しかし、糖尿病と高脂血症は、生活習慣を見直すことにより自分自身で予防や管理ができる疾患でもありますので日常生活でも以上の点に心掛けて頂きたいと思います。