保健の窓

健康診断と循環器疾患-心血管病の予防のために-

西部医師会員 都田裕之

 

健康診断の目的のひとつに心血管病の危険因子の早期診断があります。心血管病の危険因子として、高血圧、喫煙、糖尿病、脂質代謝異常、内臓脂肪蓄積型肥満、加齢、若年発症の心血管病の家族歴などが知られています。このうち、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常については、それぞれ、日本高血圧学会、日本糖尿病学会、日本動脈硬化学会から診断と治療のためのガイドラインが出ています。

血圧値については、収縮期血圧140mmHg以上あるいは拡張期血圧90mmHg以上は、収縮期血圧120mmHg未満および拡張期血圧80mmHg未満に比して心血管病の危険度が有意に高いことより、高血圧の診断基準になっています。近年、家庭用自動血圧計や24時間自由行動下血圧測定(ABPM)が普及してきましたが、家庭血圧・ABPMで得られる情報として、白衣高血圧、逆白衣高血圧(仮面高血圧)、早朝高血圧、夜間睡眠時血圧などがあり、診察室・外来血圧と合わせて評価することにより、心血管病の危険度評価に有用です。家庭血圧が収縮期血圧135mmHg以上あるいは拡張期血圧85mmHg以上ならば高血圧と診断されます。高血圧と診断された場合、臓器障害の有無や他疾患の合併の有無を評価する必要があります。

特定の原因による高血圧(二次性高血圧:腎性高血圧、腎血管性高血圧、内分泌性高血圧、血管性高血圧、脳神経疾患による高血圧、薬剤性高血圧)の場合(高血圧専門外来での頻度は5%未満~10%とされています)、原因疾患の治療が必要であり、積極的な鑑別診断が重要です。


 

血糖値については、空腹時血糖値が126mg/dl以上(正常範囲は110mg/dl未満)、75g経口血糖負荷試験2時間値が200mg/dl以上(正常範囲は140mg/dl未満)、随時血糖値が200mg/dl以上のいずれかが、別の日に行った検査で2回以上確認されれば糖尿病と診断されます。糖尿病者は重症冠動脈病変を有していることが多く、心筋梗塞を起こす危険度は健康人の3倍以上で、欧米では糖尿病者の半数近くが心筋梗塞で亡くなるとされています。脳梗塞の危険度も非糖尿病者の2~4倍の高頻度とされています。

脂質代謝異常は、総コレステロール、LDLコレステロール、トリグリセリドのいずれかが高値を示すか、HDLコレステロールが低値を示す疾患です。総コレステロール220mg/dl以上、LDLコレステロール140mg/dl以上、トリグリセリド150mg/dl以上、HDLコレステロール40mg/dl未満がスクリーニングのための基準値です。心血管病予防のための診断基準としては、総コレステロール値よりLDLコレステロール値が重視されます。遺伝子異常によって発症する家族性高コレステロール血症、家族性複合型高脂血症、家族性III型高脂血症は心血管病を発症しやすいため、正確な診断が必要です。脂質代謝異常は糖尿病や内分泌疾患、腎疾患、肝疾患、ステロイド剤・経口避妊薬の使用、アルコール過飲によっても発症することがあり、鑑別診断が必要です。

以上、医療現場と行政が一体となって、心血管病の予防のため、危険因子の早期診断・早期治療に取り組んでいます。