保健の窓

健康と栄養

鳥取県医師会員・美作大学教授 北川達也

求められる健康寿命

わが国は急速に進む少子高齢化の中で、如何にして各自が高齢になるまで健康を維持していくかが大きな課題となっています。健康管理、予防医学の観点からみた場合に、最も重要なのは生活習慣病であり、その生活習慣病の予防で最も大切なことは栄養のバランスを中心にした日々の食生活であり、そして車社会の中での運動負荷による体力の維持、増進だと考えられます。

人生50年時代には成人してから30年間心身の機能を維持できればよかったものが、人生80年時代では同じ人の身体を60年間長もちさせなければなりません。このことはより厳格に、より理に適った健康維持に努めなければならないということになります。

人生80年型社会にふさわしい健康づくりという観点から、政府は2000年に21世紀の国民健康づくりの総合戦略「健康日本21」を立ち上げ、個人の生活の質と活力ある社会を目指して種々の施策を行ってきています。

健康で自立した生活を送ることのできる期間を健康寿命としていますが、わが国の平均寿命と健康寿命との差は、81.9-75.0=6.9年、(2003年)と発表されています。高齢者の急増と若年層の減少という人口動態からみると、介護や医療に携わるマンパワーの不足してくることは必至であり、これから中高年者の健康づくりに力を注ぎ、如何にして平均寿命と健康長寿との差を縮めるか、それは最も緊要な課題といえます。

生活習慣病の予防、病気の早期発見、寝たきりや痴呆の予防によって、高齢者が自立した生活を続けて行くよう努力していくことも社会奉仕の一つと見做されています。

バランスのとれた栄養・食生活をめざして

進む長寿高齢化社会の中で、高血圧、糖尿病、高脂血症などは増加の一途を辿り、がん、虚血性心疾患、脳血管障害が死因の6割近くを占めていることは周知のことです。

生活習慣病は非常に慢性的に起きてくるものであり、長く生きればその影響はより強くでますが、不適切な食事が健康を害するとか老化を進めることにもなります。近年、健康・栄養に対する国民の関心は高まっていて、その情報は氾濫しています。

健康管理の面からはエネルギー、脂肪、食塩などの過剰摂取が問題にされますが、高齢者では十分にたんぱく質をとり、脂肪も積極的に摂っている人の方が健康度が高いというデーターが多いようです。戦後の栄養状態の改善が寿命の延長に大きな役割を果たしてきました。獣肉や乳製品による動物性のたんぱく質や脂肪の摂取が多くなりましたが、従来からの魚、大豆たんぱく、緑黄色野菜、根野菜、海草なども十分に摂取していて、和洋折衷のバランスのとれた食事をしてきました。

しかし生活のスタイルが大きく変わる中で食環境もまた急速に変化してきています。飽食の時代といわれていますが、一方では栄養のアンバランスや栄養不足が問題になっています。高齢者では栄養状態が十分でないと、疾病の併発や病気の回復の遅れによる疾病の長期化をきたすことになります。

今回は炭水化物、たんぱく質、脂肪の三大栄養素に加えて、ビタミン、ミネラル、食物繊維、抗酸化物なども含めて、健康維持のためのバランスのとれた食生活・栄養のあり方、健康なライフスタイルのあり方について考えてみたいと思います。