保健の窓

乳がん治療の現在(いま)とこれから

鳥取赤十字病院 第3外科部長 山口由美

最近の乳がんの話題 ―乳がんと遺伝―

 女性のがんの中で最も多いのが乳がんであり、日本人女性11人に1人は生涯のうち、乳がんになるといわれています。時々、患者さんから「娘にも乳がんは遺伝しますか?」という質問を受けることがあります。乳がんの約10%は遺伝性のがんであると考えられており、原因遺伝子も明らかになっています。遺伝性乳がんは、約2分の1の確率で子供に遺伝し、卵巣がんやすい臓がんにかかる確率も高いため、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群という疾患名で呼ばれています。この疾患では、乳がんは一般の方の数倍~10倍、卵巣がんは数十倍の発症のリスクがあります。また、女性だけではなく、男性にも同様に遺伝するため、男性も乳がんや、すい臓がんにかかることもあります。一方で、乳がんの約90%は遺伝性がなく、散発性乳癌と考えられています。しかし、母親や姉妹が乳がんにかかった場合、血縁者に乳がんがない方と比較して2~3倍、乳がんを発症しやすいことが知られています。遺伝性乳がんであっても、散発性の乳がんであっても、早期に発見し、早期に治療を行うことが基本です。そのためには、定期的ながん検診の受診が大切であると思われます。

 

 

 

 

最近の乳がんの話題 ―マンモグラフィーの限界―

 乳がん検診では、マンモグラフィーが死亡率を減少させることが証明されている唯一の検査法です。しかし、マンモグラフィーで発見できる乳がんは、乳がん全体の80%程度であるという報告もあります。これは、乳腺の組織量が多い場合(デンスブレスト)にはマンモグラフィーの画像が白くなってしまい、がんのしこりの影を見分けることが困難になるためです。個人差はありますが、40代以下ではデンスブレストの傾向がみられ、乳がんの発見率が低下することが報告されています。先ごろ40代の乳がん検診にマンモグラフィーと超音波検査を併用した臨床試験の中間結果が出ました。その結果、マンモグラフィーに超音波を加えると、マンモグラフィー単独に比べて、がん発見率や早期がんの比率が高くなることが報告されました。しかし、死亡率の減少効果に関しては、まだ明らかにはなっていないため、現在もマンモグラフィー単独検診が推奨されています。乳がんの早期発見のためには、マンモグラフィーには限界があることを理解していただき、2年に1度の検診に加えて、定期的な自己触診を行っていただくことをお勧めしたいと思います。