保健の窓

中高年者の膝の痛み ”変形性膝関節症”

鳥取県立中央病院整形外科部長 鱸 俊朗

 

人口の高齢化にともなって、膝の痛みを持って、私達の外来を訪れる患者さんが、近年増加の一途をたどっています。そして大半が関節軟骨の老化=変性が基盤に、女性、肥満、筋力の低下、O脚などの危険因子に、ちょっとしたアクシデント(少し膝を使うことが多かった、ジョッギングを始めた、正座することが多かったなど)が加わり発症しています。

こんな症状が出たら要注意!(前関節症:治療、自己管理により病気の発症、進行を可能な限り遅延させることが出来る時期)

膝が完全に伸びない、正座が長くできない、階段の昇り降りで痛い、立座りで痛い、歩行時に膝が不安定な感じがする等、これらの症状はごく初期のものであり、関節内の軽度の炎症を意味するものと考えます。この時期では、体重のコントロール、膝の体操、ジョッキングなどを控える、正座を控える、消炎鎮痛剤の短期服用等で対応すればよいと思います。

こんな症状が出れば一度診察を受けましょう!(関節症:保存的な治療が必要な時期)

歩き始めがいたい、膝が腫れる、膝に痛みのある音がする、膝に引っかかり感がある、膝崩れがする、安静時の痛みがある、横ぶれをともなうO脚が気になる、正座が困難になる、立座りが出来ないなどの症状が出れば、他の病気との鑑別も必要であり、また初期治療が必要な場合もありますので必ず医師の診察を受けましょう。この時期は、日常生活がスムーズに行えるようにするために患者さんの状態により、消炎鎮痛剤の投与、関節注射、装具療法(特に足底板の使用)が行われます。よく患者さんに”水を抜くと癖になりませんか”という質問を受けますが、決して癖になることはなく、膝にたまった水(関節液、場合によっては血腫)を抜くことは痛みの原因を取り除くだけでなく、病気の正しい診断、炎症の程度を知るためにも非常に大切です。

関節軟骨の老化による軟骨の変性により生じるこの病気は、進行性ですから、様々な保存的な治療をしても症状が強く日常生活が困難な場合は、手術的治療が必要となります。患者さんの状態、年齢、活動性(職業)により手術適応は異なりますが、代表的な手術法を紹介します。

関節鏡視下手術:関節鏡(内視鏡)を関節内にいれ、痛んだ軟骨あるいは骨軟骨の破片、腫れた関節包の一部(滑膜)を洗い流したり、切除したりする方法で、入院は1ー2週間ですみます。変形が軽度で水が多くたまる場合、特発性出血を繰り返す場合、膝のひっかかり感の強い場合、痛みの部位が限局している場合、他の病気(リウマチなど)との鑑別が必要な場合が適応となります。

高位脛骨骨きり術:軟骨の変性が進み、膝ぶれO脚が進み、膝内側の一部分に体重がかかる結果となり、運動時痛、自発痛(夜間痛)が強くなり日常生活、労働(重労働)に支障をきたす場合、骨切りして、O脚を矯正すると、その結果、荷重負荷が軟骨の保たれている部位にかかるようになり、痛みは非常に楽になり長期的な除痛が得られます。欠点は、骨癒合に個人差があり、入院期間が長いこと(2ヵ月ー3ヵ月)、痛みがとれるのに半年はかかることです。

人工膝関節置換術:膝関節の軟骨全体がいたみ、骨の欠損を生じ、膝の動きが悪くなり、歩行が難しくなった場合に適応となります。あくまでも、人工物ですので感染、将来のゆるみ、摩耗などの危険性はありますが、近年材料の進歩、手術技術の進歩により安定した成績が得られようになりました。しかし関節の主要部分を人工物で取り替えるわけですから、安易に行ってはいけないと考えます。再置換などを考えますと特殊な場合を除いて60歳以上の患者さんが良いと思います。除痛効果は非常に優れている反面、膝の動く範囲(可動域)は期待しにくく(ソファーから立上がれる範囲の角度くらいと考えてください。)また、長く使っていただくためには活動レベルを考慮する必要があります。

最後に、この病気の治療を考えるとき、重要なことは老化を基盤に発症する変性疾患であり、この病気の治療の根幹は”自己管理”であることを強調してお話しを終えたいと思います。