保健の窓

中高年者の肩の痛み

鳥取県立中央病院 整形外科 鱸 俊朗

-肩のしくみと痛み-

肩の痛みには、肩こり(筋肉) 、首からくるもの(頚椎)、そして肩関節から来るもの(関節)と原因は様々ですが、今回は、中高齢者に多発する、肩関節の痛み、運動制限が生じる病気である”いわゆる五十肩“(病名肩関節周囲炎)を中心にお話します。

知っておきたい肩関節のしくみ;肩関節は人間の関節の中で一番よく動く関節で自由度が大きいため、不安定になりやすく脱臼が多いのもこの関節です。そのしくみは肩甲骨と胸郭での関節(肩甲胸郭関節)、肩甲骨と上腕骨での関節(肩甲上腕関節)を含め多数の関節からなる複合関節となっており、物を投げる、高いところにものをおく、手を伸ばし作業をする、洗顔 結帯動作 結髪動作など上肢の機能を果たすための位置取りを行う大切な役割を果たしています。上肢を挙げるとき肩甲骨に1)上腕骨頭をひきつけ安定性を持たせるものに腱板(けんばん):肩甲骨から上腕骨につく内在筋からなる腱組織、2)肩甲骨に付着し体幹に肩甲骨を固定し、肩甲骨を動かす筋肉(僧帽筋)や上腕骨を挙げる筋肉(三角筋):外在筋(がいざいきん)、3)肩峰といわれる肩甲骨の一部と靭帯で構成されるアーチの下を腱板、上腕骨頭がスムーズにとおる空間(第2肩関節)などが機能することでパフォーマンスが可能であり、逆に五十肩などの痛みの発現部位として重要なところであり知っておいてほしいと思います。

痛みの原因を考える:肩の痛みの原因には1)外在筋筋肉の拘縮による肩甲骨の動きの制限や、内在筋の機能低下により関節の不安定性、関節適合性の不良による機能的破綻2)腱板断裂、脱臼などの解剖学的破綻3)リウマチなどの炎症、機能障害により発症した炎症などがありますが、重要なことは、中高齢者の肩の痛みの原因は1)によることが引き金となることが多く、2)の加齢変性による解剖学的な破綻があっても機能的なものが代償されると疼痛が軽快すること、3)機能の破綻による二次的な炎症が多いことから、肩関節の痛みは、リハビリテーション、適当な運動を習慣づけて行うなどの自己管理でかなり予防され、また治癒可能であると考えます。すなわち古い車でも定期点検、あるいはメインテナンスを行うことで故障なく長く乗れるのと似ています。次回は、五十肩の症状、診断方法、治療方法につき解説いたします。

―五十肩(肩関節周囲炎)―

いわゆる五十肩とは、原因がはっきりせず中年以後に発症し、肩関節の痛みと、肩の動きに制限が生じるものと定義されることが多いようです。年齢因子(信原病院資料より)では50歳代に多発しますが加齢に伴って多くなるものではないようです。

症状:

痛みの発症した急性期よりも、痛みと肩が上がらない、整髪ができないなどの機能障害を訴えて亜急性期に来院されるかたが多いようです。痛みは夜間痛のため、中には睡眠障害を訴える方もおられます。また頚部または上肢に放散する痛みの方もおられます。慢性期には拘縮、筋萎縮が進行し、運動時の痛みが強くなります。

検査:

エックス線検査、関節造影、MRIは主に後で紹介します疾患の鑑別診断として、また合併疾患の検索、病態の検索のために重要な検査ですが、五十肩の診断はやはり問診、診察による除外診断が中心となります。

治療:

原則は、急性期は安静、鎮痛、炎症を抑える(投薬、注射、夜間の保温、上肢のポジションを考慮)、亜急性期から慢性期は 運動療法を中心とした理学療法、物理療法(温熱療法)が主体となります。特に、慢性期となった場合、希望を持ってあせらず時間をかけて、自宅での各種トレーニング、と病院、診療所での理学療法士による可動域改善の訓練を続けることが大切であり、場合によっては精神安定剤の服用も必要となることもあります。

鑑別すべき疾患:

肩関節腱板炎:腱板に炎症が波及、変性断裂の状態もあり、肩の力が落ちたり、肩を挙げるときに引っかかる症状が出ますが、一般にいたみが取れれば拘縮はありません。症状は五十肩と酷似し区別できないことがあります。治療はリハビリテーションが基本ですが、場合によっては観血的手術が必要なことがあります。

石灰沈着性腱板炎:同年齢の女性に多く、突然発症し耐えがたい激痛あり、エックス線で肩に石灰沈着が確認されます。治療は石灰物の吸引、ステロイドの注入で劇的に軽快します。

肩関節腱板損傷:転倒、軽微な外傷で腱板が断裂し、その結果、一時的に肩が挙がらなくなりますが、多くは経過とともに徐々に回復します。しかし頑固な痛み、筋力低下、肩の運動制限が持続するケースがあります。とくに軽微な外傷の場合、本人の自覚なく、五十肩との区別が難しい場合があります。リハビリテーションが基本ですが観血的手術が必要なことも多いようです。

以上五十肩について解説しましたが、予防が1番であることは言うまでもなく、全身の管理や、適当な肩の運動を習慣づけて行うことが大切であると考えます。