保健の窓

中高年のスポーツの効果と障害

鳥取赤十字病院 整形外科 高須宣行

 

生活習慣病の予防・治療のため、スポーツを行うことは有効であることは明らかになっています。それと同時にスポーツは運動器(骨・関節・筋肉・腱など)にも有益であります。しかし、中高年になると老化による骨・関節の変化のため、軽い力でも外傷(骨折、捻挫)や、使いすぎによる障害(膝痛、筋肉痛)を起こしやすくなっています。

スポーツが運動器に対する利点としては、①骨粗鬆症の予防、②転倒予防、③変形性関節症の予防があり、これらについて説明します。

① 骨粗鬆症の予防:骨粗鬆症は、老化によるカルシウムの吸収力不足、女性ホルモンの低下により骨からカルシウムが出ておこります。外で(日にあたる)スポーツをすることにより腸からのカルシウムが吸収促進され、また骨に適度の運動による刺激で骨密度が上昇し、骨粗鬆症の予防となります。

② 転倒予防:下半身の筋力が低下し、バランスが衰え全体的な歩行能力が低下してくると転倒の危険が上昇します。高齢者は、一日の寝たきりで1.5~3%の筋力が低下するといわれています。ウオーキングでは、最低20分以上、太ももを出来るだけあげて毎日歩くことが有効です。他のスポーツとしては、水泳、ジョギング、太極拳などの全身運動が筋力の増加に有効です。

③ 変形性関節症の予防:加齢とともに関節軟骨(主に膝関節)の摩耗や骨の変形が起こり、痛みの原因となります。関節軟骨はクッションの役割があり、加重を分散させて吸収します。スポーツにより膝周囲の筋力が増加すると関節軟骨への負荷が軽減され、痛みが出にくくなります。

以上のような利点がありますが、運動器の健康を維持・増進するためには、安全で効果的であり楽しいことがスポーツにもとめられます。自分にあったスポーツを無理なくするよう心がけてください。


 

中高年者になると老化による骨・筋肉・関節などの変化のため、軽い力でも怪我をしたり、使いすぎによる障害を起こしたりします。骨粗鬆症を基盤とした外傷は、①手関節・大腿骨頚部骨折、②脊椎圧迫骨折などがあり、関節軟骨・筋肉の老化による障害は③膝関節痛、④腰痛などがあります。これらの原因は、ウオーミングアップ不足や筋力の低下、体の柔軟性の低下などが考えられます。

① 手関節・大腿骨頸部骨折:女性に多く、立った位置からの転倒でも骨折が起こります。転倒時に手からつくと手関節骨折、横向きに倒れると大腿骨骨折がおこります。手関節骨折は、ギプスなどの保存的治療を行いますが、大腿骨頚部骨折は手術が必要となることが多いです。

② 脊椎圧迫骨折:急に姿勢を変えたり、尻もちをついたりしたときに腰・背中の痛みが出現します。針を刺すような痛みで動くことが困難となり長期間の治療を必要とします。

③ 膝関節痛:長時間の運動を急に始めると膝の周囲が腫れたり、移動動作で膝関節痛が出現してきます。この原因は、関節軟骨の磨耗部位に過度の負荷がかかった関節炎と考えられます。初期には安静と冷罨法(れいあんぽう)などで軽快しますが、繰り返し起こるようであれば関節内注射(ヒアルロン酸)が必要な場合があります。

④ 腰痛:変形性脊椎症(背骨が曲がってくる)が基盤にあり、腰への負担が大きいスポーツをしたときに腰痛が起こります。軽度であれば2~3週間の安静と運動禁止で軽快します。ただし、脚への放散痛やしびれが併発するときは検査(MRIなど)が必要となります。

中高年のスポーツは健康維持にとって利点・欠点があることを理解し、個人の体力、柔軟性、心肺機能に応じたスポーツを選択し、外傷・障害のない楽しい時間を過ごしていただきたいと思います。