保健の窓

メタボリック症候群と動脈硬化予防

鳥取大学医学部 病態情報内科学講師 谷口晋一

男性は2人に1人要注意

メタボリック症候群は内臓脂肪がたまりすぎることで、血糖値・血圧・脂質などの異常が発生し、年齢よりも早く動脈硬化が進行してしまう状態です。必須事項として腹囲が男性85cm女性90cm以上、さらに①空腹時の血糖110mg/dl以上②血圧130/85以上③中性脂肪150mg/dl以上またはHDLコレステロール40mg/dl未満のいずれか2つ以上を満たす人をメタボリック症候群としています。内臓脂肪は腹部断層撮影CTを行うことで計測できますが、腹囲を内臓脂肪をあらわす簡便な指標として採用しています。メタボリック症候群では動脈硬化が進行し、動脈硬化を基盤とした血管の病気、心筋梗塞・脳卒中の温床になるため、早い段階で予防しようという考え方です。

平成16年の国民健康・栄養調査によると、強くうたがわれるもの940万人、予備軍を含めると1960万人にも及ぶと推定されています。これは男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボリック症候群かその予備群というおそるべき数字です。

内臓脂肪が蓄積することが、なぜ動脈硬化につながるのでしょうか?近年の研究で内臓脂肪は活発にホルモンを分泌していることがわかってきました。ホルモンのなかには血管を汚れにくくするアデイポネクチンのような善玉もいれば、TNF-α(血糖値をあがりやすくする), PAI-1(血液を固まりやすくする), アンギオテンシノゲン(血圧をあげる)などの悪玉もいます。内臓脂肪が蓄積してくると、善玉が減り悪玉が増える方向へ変化します。すなわち、内臓脂肪からでるホルモンバランスがくるって、糖尿病・高血圧・脂質異常などを起こしやすく、血管の動脈硬化が進みやすい環境となってしまうのです。

健康的な生活スタイルへ

それではメタボリックと診断されたらどうしたらよいのでしょうか?幸いなことに、内臓脂肪は皮下脂肪に比べて「たまりやすいが、燃焼しやすい」という性質があります。生活スタイルを改善することで内臓脂肪を減らすことは十分に可能です。

まず運動ですが、メタボリック改善のためには「体を動かす機会・時間を増やす」だけでも大いに効果があります。たとえば、ウォーキングはよい方法ですが、厚生省は一日男性9300歩・女性8300歩を目標にしています。車通勤して事務作業のみでは、一日4000歩がせいぜいですので、「社内ではエレベーターをつかわず階段で」など、日常生活で工夫できる時間で自分の足でかせぐという感覚が大切です。10分歩けば約1000歩=30kcalの消費となります。万歩計を使って自分の一日歩数をはかってみるのもよい方法だと思います。

食事についてですが、メタボリックに多い特徴として、「腹いっぱいたべないと満足できない」「早食い」「朝ごはんはたべない」などがあります。長い間に身についた食習慣を変えることは簡単ではありませんが、まずひとつの目標を作って実行してみることからはじめましょう。「おやつをやめて3食きちんとごはんをたべる」だけでもよい傾向を示す方は多いのです。最近の傾向として「肉類」「レトルト食品」「外食」が簡単にとれるようになり、以前に比べて脂分の摂取量が増えています。レトルト・外食も時々は利用しつつ和食を中心にした食事がポイントです。

メタボリック改善のためには、生活スタイルを健康的な形にもっていくことがもっとも重要です。メタボリック改善がうまくいった方は「ベルトがゆるくなった」といった言葉がでるようになります。CTで調べるとウエスト改善に平行して内臓脂肪面積が減っていることが確認できます。同時に血圧が下がってきた、血糖値が下がる、中性脂肪がさがる、といった代謝面でもよい傾向を示すようになります。

ただし「私はメタボリックではないから」と安心してはいけません。高血圧・高脂血症・糖尿病などで治療をうけている方は、治療目標をきちんと達成しておくことが重要です。メタボリック症候群は予防を中心に発想された概念ですので、治療中の生活習慣病がある場合には、そちらもしっかりと管理することが肝心です。

今回のお話を参考にして、メタボリックの方は少しでもウエストを減らし、健康な状態を維持することに役立てていただければと考えます。