保健の窓

タバコと呼吸器疾患

鳥取大学医学部統合内科医学講座分子制御内科学教授 清水英治

 

喫煙は慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、肺がん、気管支喘息、急性好酸球性肺炎など多くの呼吸器疾患の原因となります。タバコによる呼吸器障害は気道上皮障害、肺胞障害、発癌、アレルギーなど多岐にわたります。若年者の喫煙開始時におこる急性好酸球性肺炎はアレルギー反応により起こるもので、治療が遅れると死にいたることがある恐ろしい疾患です。慢性閉塞性肺疾患は息切れを症状とし、喫煙開始から20年以上かけて発病します。

米国では既に主要死因として注目されていますが、最近の全国調査でも日本に約500万人の潜在患者が推測されています。私どもの山陰地方の調査では慢性閉塞性肺疾患のほぼ100%が喫煙が原因であることがわかりました。ヘビースモーカーでは6人にひとりが肺がんにかかります。1日の本数に年数をかけたものを喫煙指数といいますが、これが600を超えると特に危険です。タバコ煙中のタールには数多くの発がん物質が含まれています(表)。

喫煙者の吸う煙を主流煙といい、周辺の非喫煙者の吸う煙を副流煙といいますが、副流煙には3?30倍の発がん物質が含まれています。喫煙は本人だけではなく、周辺の非喫煙者にも害を与えます。受動(環境)喫煙といいますが、家族内に喫煙者のいる小児では気管支喘息の発症率は3倍に高まり、配偶者が喫煙者の場合肺癌の罹患リスクは2倍に増加します。家庭や公共の場での禁煙の徹底が必要です。受動喫煙対策だけではなく、子供の禁煙教育という点でも、他県で既に行われている学校敷地内全面禁煙を鳥取県でも実施してほしいものです。

なぜ禁煙が進まないのでしょうか。タバコには依存性があり、ニコチン依存性の喫煙者にとって禁煙は簡単ではありません。簡易判定方法として起床後30分以内の喫煙と1日26本以上の喫煙があります。この両者が当てはまる喫煙者はニコチン依存性が強いと考えられます。ニコチン依存性があれば、医師など専門家による禁煙指導に加え、ニコチン置換療法により禁煙の成功率を高めることができます。