保健の窓

クモ膜下出血と脳動脈瘤

鳥取赤十字病院脳神経外科部長 金澤泰久

 

クモ膜下出血は脳卒中の一つで、脳を包む薄い膜(クモ膜)の下、つまり脳の表面全体に拡がる出血という意味です。その8割は、脳動脈瘤の破裂が原因で、毎年10万人あたり20~30人が発症するといわれています。クモ膜下出血では、今までにない強い頭痛が、まったく突然に起こるというのが特徴的な症状ですが、出血が強ければ、意識がなくなったり、命にかかわるなどさまざまです。

出血原因の8割を占める脳動脈瘤とは、脳動脈の分かれ目(分岐部)にできるコブ(瘤)のことです。分岐部では、生まれつき血管の壁が薄い人があり、これに動脈の拍動や動脈硬化、高血圧などの影響が加わって、ちょうど風船がふくらむようにして動脈瘤ができると言われています。

クモ膜下出血は、症状やCTスキャンで診断可能です。脳動脈瘤も、CTやMRによる血管撮影で、比較的簡単に診断できるようになりました。しかし、確定診断には、脳の動脈にカテーテルを入れ、造影剤を注入する脳血管撮影が必要です。

クモ膜下出血(脳動脈瘤の破裂)の治療では、つぎの3つが問題になります。
1)再出血(再破裂):動脈瘤が再び破れ、出血することです。しばしば致命的で、急性期ほど可能性が高く、再出血の予防が全てに優先する治療となります。
2)脳血管レン縮:出血の老廃物により、脳の動脈が縮んで血液が流れにくくなり、脳に障害(脳梗塞)が起こります。出血後4日目から約10日間続きますが、その程度は出血の多少に比例します。
3)水頭症:出血によって頭の中の水(脳脊髄液)の通りが悪くなり、脳の中に水がたまって脳を圧迫します。出血直後から数カ月たっても、起きる可能性があります。

 

クモ膜下出血の治療では、1)再出血(再破裂)、2)脳血管レン縮と3)水頭症が問題になることを述べました。
1)再出血(再破裂)を予防するには、頭を開け、動脈瘤の根元を小さなクリップではさむ手術(クリッピング)が必要です。顕微鏡を使い、一歩ずつ慎重に進めて行きますが、手術中に破裂したり、動脈瘤の大きさや場所によっては思わぬ障害を残すことがあります。
2)脳血管レン縮では、血管を広げたり血液を流れやすくする薬を使い、血圧や全身状態をコントロールして治療します。縮んでいる動脈に直接薬を入れたり、小さな風船で広げることも行われています。
3)水頭症では、脳の中に細い管をいれ、余分な水を体外へ出してやる手術(脳室ドレナージ)や、お腹の中に導いて身体から吸収させる手術(髄液短絡術)が必要です。

最近では、クモ膜下出血の発症を予防し、より安全に治療することもできるようになりました。これまでクモ膜下出血は、動脈瘤が破裂し出血を起こしてから治療が始まっていましたが、「脳ドック」では、磁気を使ったMR装置により、破裂する前の動脈瘤(未破裂動脈瘤)を発見することが大きな目的になっています。また、動脈瘤の入口までカテーテルを入れ、中に小さなコイルを詰めて破裂を予防することも試みられています。

クモ膜下出血は命にかかわる病気ですが、適切な治療により元の生活に復帰することができます。皆さまには、クモ膜下出血と脳動脈瘤という病気を知ってもらうことで、これからの健康管理に役立てていただければ幸いです。