保健の窓

キズの潤い保って治す

鳥取県立中央病院皮膚科医長 河上真巳

新素材の絆創膏

最近、数年前までは見かけなかった、新素材の目新しいキズ絆創膏をドラッグストアやCM等で見かけたことがありませんか?その新しい絆創膏は、従来からあるカットバン(通気孔の小さな穴のあいたビニールテープに、小さくカットされたガーゼのような素材がくっついているもの)とは異なり、ハイドロコロイド、ポリウレタンフォーム等の新素材をキズ口に貼付します。これらの新しい絆創膏達に共通しているのは、キズを乾かすのが目的ではなく、湿潤環境を保つことを目的としている点です。キズの手当ては、旧い考え方では早く乾燥させてカサブタにして治すのがよい、とされていました。それが21世紀に入り、キズは潤いを保持して治すのがよい、と徐々に新しい考え方が広まろうとしています。擦りむきキズなどのキズがジュクジュクすることは、バイ菌がついて化膿するから不潔というのは間違いで、実はジュクジュク(浸出液)にはキズを治すための大切な細胞成長因子などの創傷治癒物質が含まれているのです。キズの表面ではその潤い環境で、キズを治そうとする細胞達が活躍しているのです。キズを乾かすと、それらの細胞達も干乾びて死んでしまいます。

キズほ消毒しない

前回、キズを干乾びさせてはいけない、という話をしましたが、もう一つ、キズに対してしない方がいいのは消毒です。転んで膝小僧の擦りむきキズを赤チンで消毒して乾かす、なんていうのはもう昔の話。オキシドール、ヨードチンキで消毒する、というのもいけません。消毒は有害なバイ菌だけ殺菌してくれるのならいいのですが、キズを治そうと活動している細胞達も無差別的に殺してしまうのです。なぜなら、消毒薬は蛋白質を凝固変性させる組織障害性があるからです。これはバイ菌だけでなく全ての生体に等しく作用してしまいます。細菌は、細胞膜がむきだしの人体細胞と違い、細胞膜の外側が細胞壁というバリアに覆われていて、さらに防護が強固にできているため、バイ菌が死んでしまうほど強力に消毒すれば、バリアの弱い人体細胞など、ひとたまりもありません。キズは水道水洗浄するだけで十分です。極端な話かもしれませんが、水洗いし、干乾びないようにラップで覆うだけでも簡単なキズはたいてい治ってくれます。長年、常識的習慣として根付いているキズの消毒を今すぐなくすことは不可能でしょうが、廃止に向かうのも時間の問題かもしれません。