保健の窓

インフルエンザの流行に備えて

日野茂男

 

インフルエンザは、

①毎年のように冬流行するウイルス病である。

②他のウイルスよりも、特に流行が激しい。

③症状が重く、成人でも回復に1週間ほどかかる。

④ときには、死に至ることもある。

ので問題になる。

インフルエンザウイルス

大別してA型とB型があり,冬季に大流行するのは,A型である.12月の終わり頃から流行することが多い.流行はおよそ7週間で終結する.B型は春期から夏にかけて流行することもあるが,その流行はA型に比較して軽くだらだら続くのが普通である.A型ウイルスは,香港型,ソ連型のどちらかが多いが,最近は同じ冬に両方のウイルスを見かける.麻疹ウイルスも感染力が強いウイルスの一つだが,麻疹は一生に一度しか発病しない.インフルエンザウイルスは,毎年変化して新しいウイルスがやってくるので,インフルエンザには毎年かかる可能性がある.

大部分の人に感染してしまうインフルエンザウイルスは,免疫を回避するような変異をおこすことによって生き延びることができるのである.ときに,インフルエンザウイルスは遺伝子に大きな変異をおこす.このようなときには,大流行をおこし,千万人単位で死亡者が出る可能性がある.1917年,1968年の大変異は有名である.昨年,香港で見つかった大変異をおこしたウイルスは,そのまま大流行をおこすには至らなかったが,そろそろ大変異による大流行をおこしても不思議はない.

インフルエンザは,他のかぜより症状が強い.発熱,頭痛,筋肉痛など.時に肺炎や脳症をおこすことがある.免疫力の衰えた場合重症化し,死に至ることがある.とくに,高齢者は注意.症状の強さは,B型インフルエンザウイルスでもさほど変わらない.

ワクチン

インフルエンザウイルスに対するワクチンは,毎年流行するウイルスを予測して作られる.予測が当たれば,比較的よく奏功する.ワクチンの中身は毎年異なるので,「昨年ワクチンをうったから,今年はいいだろう」という素人判断は間違っている.

ワクチンの効果は,ワクチンを開始してから1ヵ月ぐらいしないと十分な効果を期待できないので,インフルエンザの流行がマスコミに流れてから「ワクチンをしておこうか」と考えるのは手遅れである.ワクチンをすると判断したら,なるべく早いほうがいい.11月中には始めるべきである.

治療

抗インフルエンザウイルス剤.アマンタジンは,1964年米国で開発されたA型インフルエンザウイルスに対する薬.1998年になって日本でも認可された.発病48時間以内なら病気を2/3ぐらいに短縮できる.B型インフルエンザウイルスには,原理的に無効.幻覚,はきけ,食欲不振などの副作用あり.腎機能の悪い人は,排泄が遅れるので注意.予防的に使用することもできる.

耐性ウイルスの出現

ノイラミニダーゼ阻害剤.細胞からのインフルエンザウイルスの放出を防ぐ.吸入剤.予防的にも使用できる.日本では使用されていない.

対症療法.解熱剤,鎮痛剤,補液.栄養維持.

予防

インフルエンザウイルスにさらされることは避けられない.感染しやすい生活行動の大部分は不可避である.体力をつけておくことが必要.

マスクはほとんど役に立たない.手をよく洗う(どれくらい効果があるかは不明).

インフルエンザウイルスの流行に対する情報を得て,かかったと思ったら速やかに医師に相談(アマンタジンによる治療は発病後早ければ早いほど効果が高い).

ワクチンを受けるなら,なるべく早期に受ける.