保健の窓

アルツハイマー型痴呆症の治療

鳥取大学医学部保健学科 生体制御学講座教授 浦上克哉

 

痴呆症はこれまで「治らない疾患」、「患者本人に笑顔はない」、「家族は介護地獄である」という印象を持たれていた。しかし、痴呆症は近年大きく変わってきている。

現在痴呆症は65歳以上の10人に1人、アルツハイマー型痴呆は20人に1人という頻度でみられる極めて“ありふれた疾患”である。痴呆症をきたす疾患にはいろいろな疾患があり、まず忘れてはならないのは治療可能な痴呆が1割くらい存在することである。“痴呆症は治らない”という考えは、病院受診へのきっかけをなくすものであり、考えを変えてもらわないといけない。痴呆症の約半数を占めるのはアルツハイマー型痴呆である。近年本邦でも、アルツハイマー型痴呆にも塩酸ドネペジル(商品名アリセプト)という治療薬が発売され、治療可能となってきた。塩酸ドネペジルは脳内で減少したアセチルコリンを増加させる作用を持つ。記憶障害、判断力の障害などの中核症状を改善させ、症状の進行を遅らせることができる薬剤である。しかし、根本的に直せる薬剤ではなく、今後根本治療薬が望まれる。ただし、根本治療薬は世界的規模で今後期待のできる薬剤が開発されてきており、近い将来根本治療薬が使用可能となると思われる。現在最先端をいっている根本治療薬は、アミロイドベータ蛋白のワクチン療法、セクレターゼ阻害剤などである。

以上のようなことから、アルツハイマー型痴呆は「治らない暗いイメージ」の病気ではなく、「今後治療可能となる可能性の高い」病気として前向きに考えていただきたい。

前回の稿で述べたような治療薬の現状から、アルツハイマー型痴呆の早期発見が求められている。しかし、この疾患の早期発見は容易ではない。本人が病識を持って病院を受診することが少ないので、周囲の人が早めに変化に気づいて病院受診などのきっかけを作ってあげることが望まれる。

気づきのヒントとしては、①時間や月日が分からなくなる、②身近な家族の名前が分からなくなる、③大事なもの(財布、通帳、印鑑、ほか)、④大事な約束を忘れてしまう、⑤料理のレパートリーが少なくなる、⑥会合、買い物などの外出の機会が少なくなる、などが大切である。より早期に且つ簡便に痴呆症の早期発見ができることを目指して、タッチパネル式コンピューターを用いたスクリーニング法を我々のグループは開発した。

この方法を用いると、①誰でも手軽にどこでも検査が簡単に行える、②非侵襲的である、③検者による差がない、④感度、特異度が高い、などの利点がある。今後の展開としては、自動血圧計で誰もが手軽にどこででも血圧が測れるように、物忘れを感じたとき誰でもどこでも手軽に物忘れの検査ができ、病院受診の必要性を判断できることができればと考えている。

痴呆症の予防については現在確立されたものはないが、“痴呆になりにくい生活習慣”をお勧めしている。これには、①毎日日課を決めて生活する、②内容としては創造的なことをする、③指先使う、歩く、④ストレスをためない、などである。ひとりでは長続きがしないので、仲間と一緒にすることをお勧めする。