保健の窓

めまいについて

鳥取県医師会理事 阿部博章

 

私たちはどんな時にめまいがしたというでしょうか。「周囲の物体が静止している時にいろいろの方向に動くように見え、また直立の姿勢を保とうとしてもそれが困難な状態」(Webster)という定義が耳鼻咽喉科の本に書かれています。このような回転感を伴っためまいの他に単にふわふわするような感じのめまいもありますし、立ちくらみのように意識が遠のく感覚をめまいと表現されることもあります。また、精神的動揺や不安感などもめまいと表現されることもあります。

最も一般的なめまいを起こす疾患として良性発作性頭位めまい症という病気があります。これはある朝、起きたとたんにめまいがするのですが、めまい吐き気などの他に症状がなく、だんだんと軽くなっていくのが特徴です。

めまいがする有名な病気としてメニエール病があります。めまいを訴えて来院した患者さんが「以前にメニエルと言われた事がありまして・・・」と訴えられることがありますが、本来のメニエール病の有病率は10万人に16~17人ぐらいで、そう多い病気ではありません。一般にめまい・耳鳴・難聴を訴える場合にメニエール症候群という呼び方をすることがあるのですが、拡大解釈されてめまいを訴えて他に重大な症状がない場合に「メニエル」と言われることがあるようです。本当にメニエール病であるかどうかは耳鼻咽喉科を受診してしばらく経過を観察する必要があります。

幸いなことに回転感を伴うめまいの大半は耳が原因で生命の危険はまずありませんが、中には脳に原因があるものもと鑑別がつきにくい場合もありますので注意が必要です。

めまいというのは体や心のバランスが損なわれたことを表現する言葉です。それでは人間は普段、どうやってバランスを取っているのでしょうか。3つの重要な手がかりがあります。耳で重力や慣性力というものを感じてどちら上かとか、頭が移動したり回転することも感じること、目から見たまわりの景色、そして足の裏や関節の感覚です。これらのうち一つが失われてもそうバランスを崩すことはありませんが、どれか2つが失われるととたんにフラフラします。

糖尿病で足の裏の感覚が鈍くなった人や関節炎などで膝や腰が痛い人が夜中にトイレに行こうとして暗い部屋や廊下を歩こうとすると転倒しやすいわけです。足腰がしっかりしていても耳に異常がある場合は暗くて目からの情報が不足すれば同じようにフラフラします。

お年寄りや障害のある人が転倒しないようにするためにはこの3つの条件を整えてあげることが大切です。目から入ってくる情報に関してはとにかく明るくすることが大切です。夜中にトイレに行く時には必ず照明を点けてからにしましょう。足の裏や関節の感覚に関しては、あまり柔らかすぎる床は足の裏の感覚を鈍くしますし、手すりや杖は損なわれた足の裏や関節の感覚を補ってくれます。耳に関しては重力や慣性力をコントロールすることは現在の科学では不可能ですが、耳に病気がある場合にはきちんと治療することが大切です。