保健の窓

みみの話-耳垢から補聴器まで-

鳥取県医師会理事 阿部博章

 

耳垢が溜まると聴こえが悪くなるとお思いでしょうか?鼓膜が見えない様な大きな耳垢があっても意外と聴こえには影響しません。音には回り込む性質があるからで、塀の向こうにいる人は目には見えないけれど声がするのと同じ原理です。ところが隙間なく詰まったり、水が入ってふやけたりすると、急に聴こえなくなります。多くは間違った耳そうじの習慣が原因です。耳の穴は鼓膜も含めすべて皮膚で覆われていますが、表面には死んでしまった細胞が角質層を形成しています。これが鼓膜の中央から外に向かってゆっくりと移動していて、例えば鼓膜の上にゴミや耳垢の欠片が付着したりしてもしばらく経つと自然に外側に出て来ます。大きな耳垢を押し込むとこの角質層の自然な移動が妨げられて次々と耳垢が溜まっていきます。無理に取ろうとするとさらに奥に押し込んでしまったり、耳の穴に傷をつけてしまったりします。耳鼻咽喉科を受診して取ってもらいましょう。

しっかりと耳垢が詰まると聴こえが悪くなるのですが、この他にも鼓膜の奥に水が溜まったり、鼓膜に穴が開いたりした時にも音の伝わり方が悪くなったための難聴(伝音性難聴;でんおんせいなんちょう)になります。この難聴の特徴は外界の音は聴こえにくいにもかかわらず体の中の音はかえってよく聴こえることです。この状態は体験するができます。「イー」と声を出しながら片側の耳の穴に指を入れて塞いでみてください。塞いだ瞬間にその側の耳が大きく聴こえます。これが伝音性難聴です。基本的には治る難聴ですが、特に老人性難聴などで元々難聴がある人ではさらに聴こえが悪くなりますから問題です。


 

現在でも比較的高齢な方々の中には慢性中耳炎や中耳手術術後による難聴の方が少なからず見受けられます。以前はこの2つが難聴の原因のかなりを占めていましたが、最近では抗生剤の進歩と耳鼻咽喉科治療の普及により激減しました。代わって増えて来たのが鼓膜や耳小骨など音の伝わりに異常のない難聴です。これを感音性難聴(かんおんせいなんちょう)といいますが、この中で加齢によるものを老人性難聴と言います。主に障害されるのは内耳といって、耳の奥深く骨の中に埋もれている器官です。内耳は音の振動を神経の信号に変換するところで、その仕組みが機械的であるため長年使っていると壊れてくるのです。この変換装置が頑丈な人は歳を取っても良く耳が聞こえ、そうでない人は早くから難聴になります。

一般に落ち着いてしまった感音性難聴の回復は困難で、補聴器の登場となるのですが、これがそう簡単ではありません。皆さんも悪い評判をお聞きになった事があると思います。まだ難聴が軽い時期に使用すると補聴器はそう悪いものではないのですが、難聴が進むにつれて音が割れたり、うるさかったり、言葉が判りにくかったりといろいろと不満が出て来ます。そこで補聴器をその人の耳に合わせて調整する(フィッティングといいます)ことが必要になります。これには専門的な知識と経験が必要です。補聴器の進歩は日進月歩で次々と新しいものが生まれてきます。しかし、必ずしも最新式のものでなければ使えないという訳ではありません。まず、耳鼻咽喉科を受診して自分の耳はどういう耳で治療が必要なのか、補聴器を使う必要があるのか、あるとすればどういったタイプの補聴器がいいのか、相談してみることをお勧めします。