保健の窓

がん医療と緩和ケア

国立病院機構 米子医療センター院長 濱副隆一

 

「がんになりたくない。」「がんなっても死にたくない。」という願いは誰しも同じです。しかし、がんになる生涯リスクは男性で2人に1人、女性では3人に1人に上り、実に国民の3人に1人ががんで亡くなっています。昨年6月に「がん対策推進基本計画」が策定され、がん医療は大きく変わろうとしています。がん医療の目指すところは、がんの発生率と死亡率を減少させ、がん患者さんとその家族の QOL を向上させる事に尽きます。これを実現させるためには、地域ごとに指定された「がん診療連携拠点病院」の役割・活動が極めて重要です。

がん制圧の手段は予防、早期発見、標準的治療、そして緩和の4つです。まず、がんを起こす危険因子を取り除くこと、特に、たばこを野放しにしては、がん死亡率は下がりません。次に検診を普及させること、すなわち、がんを早期に発見して治療すれば、多くのがんは治ります。検診受診率が平均で17%に過ぎないことは大きな問題です。治療に関しては、単に治すだけでなく、「がんの治し方」が重要で、患者さんの要望や QOL が重要視されるようになってきました。次回は、緩和医療を含めて、がん患者さんのQOL 向上についてお話しします。


 

がん患者さんの多くは、がんと宣告された時点から、病気を受け入れ、治療や療養生活に納得して臨みたいと考えますが、同時に絶望するほどの様々な苦悩に苛まれています。また、家族にも精神的に大きな負担がかかり、「家族は第2の患者」と言われます.したがって、がん告知後には、患者・家族への精神的なサポートケアは必須です。米子医療センターの「スマイルサロン米子」では、がん治療への不安や再発に対する恐怖など様々な問題について、患者・家族が自由に意見や情報を交換し、お互いに支え合い勇気づけられる場になっています。

緩和医療の役割は、第1には患者さんの身体的な苦痛を和らげることですが、精神的な苦痛を支えることも重要で、患者・家族にQOL向上をもたらし、生きる意味や価値を高める結果に繋がります。また最近は、がん治療全体(放射線治療/化学療法/緩和医療)が外来化される傾向にありますので、多職種からなる専門的な緩和医療チームを外来診療で機能させる必要がでてきました。

さらに、がん患者の半数以上が「がん難民」と言われる今日、患者さんが納得・満足できるがん医療の提供体制を地域全体で作ることが要求されていると思います。