保健の窓

お酒と健康 ―酒は百薬の長か?―

金沢医科大学消化器内科教授 高瀬修二郎

 

「百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそ起これ」とは兼行法師の言葉ですが、お酒の功罪について考えてみたいと思います。

お酒を飲めるか否かは遺伝子によって既定されていて、飲めない人ではアルコールの代謝過程で生じる毒性の強いアセトアルデヒドを解毒する酵素活性が欠損しています。飲める体質の人でも飲み方を間違えれば、五臓六腑に染み渡ったお酒によって、肝臓のみならず膵臓、消化管、脳、心臓など多くの臓器障害や、糖・脂質などの代謝障害に悩まされることになります。特に肝臓はアルコールを代謝する工場ですから、障害が起こり易く、アルコール性肝炎や肝硬変などの生命に関わる病態が引き起こされます。また、膵炎患者のほぼ4割で過剰の飲酒が原因になっており、最近では重症型急性膵炎が増えてきています。さらに大酒家では、咽・喉頭や食道の癌が発生し易いことは古くから知られており、大腸発癌との関連も注目されています。

臓器障害を来すほどの常習飲酒者では、禁酒ないし節酒の継続は容易ではありません。いわゆる「休肝日」の意義は飲酒総量を減らすことにありますが、その翌日に通常の倍量を飲むようでは意味はありません。このような人では、アルコールに依存した状態になっているとの自覚と、禁酒を守る固い意志が何よりも大事で、家族や周囲からのサポートも必要です。

少量のお酒を飲んでいる人では、善玉コレステロールが増え、心筋梗塞などの心臓疾患が少なく、また寿命も長いことが明らかになってきています。寿命を延ばすお酒の量とは、飲める体質の人で、日本酒に換算して約1合に相当するアルコール量(約20g)といえるようです。