保健の窓

うつ病の正しい理解-その多様性と間違いやすい点

鳥取大学医学部統合内科医学講座精神行動医学分野教授 中込和幸

 

うつ病は“心の風邪”とも言われるほど,一般的な疾患として知られるようになって来ました。一生涯のうちで,うつ病に罹患する人は約10~20%といわれ,とくに女性に多くみられます。一方,うつ病は軽視できるものではなく,わが国で7年連続年間3万人を超す自殺の主要な原因となっています。自殺者の約70%がうつ病によるものとされています。

うつ病は決して治りにくい病気ではありません。適切な治療と休養によって,大部分は約3ヶ月間で回復します。それにも関わらず,自殺者が減少しないのはどうしてでしょうか。自殺者の多くは精神科治療を受けていないことが知られています。本人や周囲の人がうつ病に気づいていないことが原因と考えられます。

うつ病の主要な症状は,憂うつな感情や意欲の低下など,気分の変化ですが,そうした気分の変化が目立たず,身体の症状が前面に現れる場合もあります。患者さんは,身体の病気を疑い,内科などを受診しますが,診断がつかず,しばしば「病気ではない。気の持ちよう」などと言われて帰されます。身体症状は悪化し,気分も落ち込みますが,身体症状のためと考え,絶望感にさいなまれ,最悪の転帰を迎える場合もあります。

また,近親者との離別や死別など,当然気分が落ち込むと考えられる出来事に引き続いてうつ病を発症した場合,通常の心理的反応と捉えて,うつ病を見落としがちになります。しかし,うつ病はこうした辛い体験の他,環境変化や身体疾患などをきっかけに生じることが珍しくありません。きっかけがどうあれ,気分の変化や身体医学的に説明できない身体症状がずるずると続くようであれば,精神科を受診することをお勧めします。