保健の窓

いつまでも歩ける人生をすごすために-運動器不安定症とは-

鳥取市立病院整形外科部長 森下嗣威

 

年とともに体力が低下してくるにつれて、自分が年を取ってきているのを自覚するところです。もともとスポーツを日常の生活の中に取り入れておられる方は、生活に支障を来すような体力低下は相当に高齢にならないとありません。しかし、体力がさほど十分でない方は、加速度的に衰えます。

年をとっても人に介護を受けるようにはなりたくないと、誰しも思います。家族の負担、施設への入所など、考えただけでもつらくなります。これまでは、その様にならないように守る事、すなわち受け身で物事を考えてきました。われわれが指導してきた運動も、その様にならないための単純な運動の繰り返しでした。

さて、生き甲斐のある人生とは何でしょうか。単に毎日脚を上げる運動をする事ではなく、行きたいところに行けて、やりたいことをやり、友人と楽しく親交を深めることではないでしょうか。すなわち、いつまでも歩ける事が大切です。歩けなくならないようにするには何をしたらいいかを考えるのではなく、もっと積極的に、どんどんどこまでも一人で歩いて行くためにはどうしたらいいかを考えるべきでしょう。

近年、「運動器不安定症」という病気の概念が提唱されています。聞き慣れない方も多いかと思いますが、難しい言葉で言うと「高齢化で、バランス能力および移動歩行能力が低下したような状態」となります。もう少しわかりやすく言うと、「老化などで歩行がままならなくなった状態」ということになります。

老化とともに少しずつ体力が低下する場合は、いつまでも歩けるのですが、運動能力の急激な低下を来す病気やけがにかかると、それを契機に急速に歩けなくなることがあります。次回は、具体的な病気やけがをあげて説明します。


 

前回は運動器不安定症の概念についてお話ししました。今回は急激に運動能力の低下を来す病気やけがについて、具体的にお話しします。

せぼねで言うと、腰が曲がる、背中が丸くなるなどが代表的な変形です。このことで歩行バランスが悪くなり、杖をついたり老人車を押さないと歩けなくなります。歩くのもつらいですから次第に歩かなくなり、やがて歩けなくなります。さらに、脊椎(せきつい)圧迫骨折といってせぼねがつぶれるけがをすると痛くて動けない期間が約1ヶ月は続きますから、さらに体力は低下します。このような変形や骨折が運動能力の低下を来します。

せぼねの影響は脊髄(せきずい)にもおよび、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)になると、神経痛などで歩行が困難になります。タレントのみのもんたさんはこの病気になり手術をされました。的確に対処されたので今もお元気にご活躍されています。

関節に変形がくると痛くて動かせなくなります。膝(ひざ)関節が変形し痛くなる人が多くありますが、この場合も痛くて歩かなくなり、歩かないことで大腿部(ふともも)の筋力が弱ってさらに歩くことができなくなります。変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)と言います。

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が進行すると、わずかの転倒で骨折をします。骨折する代表は手関節、せぼね、大腿骨近位部です。特に大腿骨近位部骨折はその時点で骨折があるために歩けなくなりますので大問題です。早期の手術が必要です。

このような疾患は、老化に伴う部分がありますので避けられないところがあります。しかし、あきらめていては幸せにはなれません。積極的にグループ活動に参加して、身体を動かして、おおいに笑って過ごすことが大切です。いつまでも、元気!元気!で過ごしましょう。