保健の窓

『うつ』と現代社会~心の生活習慣病

鳥取県立精神保健福祉センター所長 原田 豊

 

やる気が出ない、意欲が湧かない、何だか「ゆううつ・・」、これが、うつ状態です。物事に興味も起こらなければ、なかなか頭に入らない。人から、「聞いて驚け、見て笑え」と言われても、以前の様に感動もなければ、笑う気にもならない。「爆笑オンエアバトル」を見ても、おもしろく感じない。おもしろくないのは、自分のうつ状態のせいか、演じるコメディアンのせいなのか、判断力が落ちて分からない。

うつになると思考力も落ちてくる。買い物に出ても今日のメニューを何にしたらよいか分からない。それなら一層のこと、昨日と同じカレーにしようと思ってルーを捜すが、「こくまろ」と「まろやか」の区別が分からない。カレーを作りながら、もしかしたら家族が「今日もカレーか」と怒るかも知れない、叱られたらどうしようかと、いつになく不安で取り越し苦労ばかりする。時には、「あれをしないと行けない、これも・・」と頭の中では思いつつ、身体の方が言うことを聞いてくれず、横になってはいるものの、イライラして落ち着かない。夜になっても、なかなか寝付けないし、途中で良く目覚める、朝早くから目が覚める。食事を取るものの、おいしく感じられない。

こういったうつ病の場合によく見られる「うつ状態」ですが、現実にはうつ病以外でもいろいろな場面で見られることがあり、適切な診断も重要です。職場では、さまざまなストレスなどをきっかけに「うつ反応」が多く見られます。それなれば、ストレスを軽くすればいいんだと思うものの、今の世の中、なかなかそれとて難しく、それならば、いかにストレスとつき合うか、うつとつき合っていけばよいのか考えていきましょう。

精神科の病気も、自律神経や身体の脳という臓器の一部の働きにアンバランスが生じてきたものですから、生活習慣病と同じです。そのアンバランスを安定させる薬をしばらくの間キチッと飲んで、その病気に応じた生活への対応が必要になって来るはずなんですが・・・・

●とある内科を受診した男性を、心配した知人がたずねました。
―――どんな病気と言われたの?
 糖尿病だって、薬も出されて、キチッと飲みなさいと言われたよ。それに食事指導もされて、食生活も甘い物などいろいろと控えるように言われて大変だよ。薬もキチッと飲むのも面倒くさいしね。
―――そうか、それは大変だったね。でも、薬はキチッと飲まないといけないよ。毎日の生活だってお医者さんの言うことを良く聞かないとね。

●とある精神科を受診した男性を、心配した知人がたずねました。
―――どんな病気と言われたの?
 うつ病だって、薬も出されて、キチッと飲みなさいと言われたよ。それに生活は、しばらくは余り無理しないように、ゆっくりと休むように言われたよ。
―――そうか、それは大変だったね。でも、大変なのは分かるけれども、無理しなくて良いからと言って、ごろごろしてちゃダメだよ。病は気からって言うでしょ。やる気の問題なんだから、皆だって仕事に行きたくないことだってあるけれども、我慢して行っているんだから。薬なんかに頼ってちゃダメダメ。それに、その精神科の医者って大丈夫なの?

※これは、間違いですね。うつ病というのは一つの病気、怠けややる気の無さでは有りません。治療に必要なのは、薬物治療と休養、そして周囲の正しい理解です。