保健の窓

『あぶら』にまつわるエトセトラ ~脂質異常症について知っておきたいこと~

鳥取県立中央病院 糖尿病・内分泌・代謝内科 村尾和良

コレステロールは悪?

 新年度になり健診の季節になりましたが、皆さん受診されていますか?健診で指摘される事の多い脂質異常症は、自覚症状がないため軽視されがちですが、動脈硬化を引き起こし脳梗塞や心筋梗塞などの病気の原因となります。特にLDLコレステロールは悪玉コレステロールと呼ばれ、それを下げることで脳梗塞などのリスクを下げることが出来ます。それでは、コレステロールは悪者なのでしょうか?コレステロールには私たちの体にとって重要な3つの物の材料になります。それは、体中の約60兆個の細胞膜、ステロイドホルモンや性ホルモン、脂肪の消化吸収を助ける胆汁酸(消化液)です。コレステロールが無いと私たちは生きていけないわけで、必ずしも悪者とは言えないのです。治療に関しては、スタチンと言われる薬の登場によって簡単に下げられる時代になりましたが、その分食事が軽視されるようになった印象です。あまり軽く考えずに、もっと『あぶら』について勉強して上手につきあっていかないと、後で痛い目にあうかもしれませんよ。

 

 

 

 

早期受診の勧め

 家族性高コレステロール血症(FH)という病気があります。これは遺伝子の異常による遺伝性疾患で、全世界的に200~500人に1人くらいいると言われています。治療を受けている高LDLコレステロール血症患者の8.5%を占めるという報告もあります。常染色体優性遺伝という遺伝形式をとり、家族にFHがいる家系では2人に1人がFHになります。FHの場合、LDLコレステロールがかなり高くなるため、動脈硬化の進展が早く、早期に治療を開始しないとかなり若い段階で心筋梗塞などを起こします。一般的な治療で使われるスタチンと言われる薬では十分に下げられず、治療に難渋することが多いですが、昨年発売されたPCSK9阻害薬は注射薬ではありますが、スタチンと併用することで劇的な効果が得られます。しっかりとした治療ができる時代になりました。コレステロールが高くても自覚症状はありませんが、早期の治療開始が勧められますので、家族にFHや早発性動脈硬化性疾患がいる方や、黄色腫(肘や膝などに黄色いいぼ状の塊を作る)がある方は早めの受診をお勧めします。