保健の窓

「健康診断でよくみつかる肝臓病:脂肪肝」

鳥取大学医学部第二内科教授 村脇義和

 

近年、高齢化社会を迎え高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中などの生活習慣病への関心が高まってきていますが、生活習慣病としての肝臓病への関心は今ひとつです。この理由として肝臓は沈黙の臓器とも言われ無症状のことが多いことが挙げられます。ただ、幸いなことに平成元年10月より健康診断に肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)が取り入れられるようになり、肝臓病への関心が高まってきています。

健康診断でよくみつかる肝臓病としてまず脂肪肝が挙げられます。健康診断では「GPT、γ-GTPが少し高い」あるいは「腹部超音波検査で肝臓が腎臓に比べて白っぽい」などの結果で脂肪肝は発見されますが、わが国では約1500万人、国民の15%前後が脂肪肝と推定されています。脂肪肝は肝細胞内に中性脂肪が過剰に蓄積している病気で、最も多い原因は過栄養性すなわち肥満によるものです。肥満を解消しますと脂肪肝は容易に正常肝に戻りますが、放置されていることが多いのが実状です。

脂肪肝自体は慢性化することもなく恐い病気ではありませんが、脂肪肝の患者さんは、高血圧、高脂血症を合併していることが多く、更には狭心症、心筋梗塞の発症率が高いとされていますので、出来るだけ治しておく必要があります。過栄養性脂肪肝の治療は、食事量を減らして運動をし、2ヶ月に1kg程度減量し標準体重に持っていくことですが、皆さんがいろいろな理由を付けて実行されないのが実状です。

例えば、食事量を今の8割程度にして下さいと説明しますと、多くの人はあまり食べていませんと答えられます。食事調査をしてみますと健常者に比べて実際沢山食べておられるのですが、このような返答をされるのは肥満のため茶碗が小さく見えるためではと思われます。更に問題なのは、中高年の男性は仕事に強く打ち込み、夜遅くまで会社で仕事をして、帰宅後動けなくなる程大量に食べてしまうことです。1回にそれも寝る前に沢山食べるのは脂肪肝への近道です。運動は1日5000歩から始めて10000歩程度の散歩を行うのが理想ですが、5000歩の散歩は距離にすると3km程度、時間では30分程度ですが、仕事人間の中高年者ではこの時間も取れないのが実状のようです。

何れに致しましても、脂肪肝は他の生活習慣病を引き起こす恐い病気であるとの認識のもと生活習慣の改善に努めることが大切です。