保健の窓

「ひふにいい」漢方医学の話

鳥取大学医学部附属病院 皮膚科 助教 柳原茂人

体質に合わせた医療

 約2000年ほど前に編纂されたとされる書物、傷(しょう)寒(かん)雑病論(ざつびょうろん)、神(しん)農本(のうほん)草(ぞう)経(きょう)、黄帝内(こうていだい)経(けい)は、当時のまま現存しないが、漢方医学の三大古典として漢方を学ぶ者にとってのバイブル的な存在である。詳細な人間・自然観察の結果がまとめられており、大自然、大宇宙の中に生かされている人間の本来あるべき姿というものを教えてくれているような気がする。朝早く起き夜には早く寝なさい。春には春の、冬には冬の生活をしなさい。など、健康を保つための知恵が沢山詰まっているのだ。現代人は、夜遅くまで煌々と明かりをつけて寝る間も惜しんで働く。ビールやコーヒーの過飲、甘い物、暴飲暴食で胃腸を傷つける。高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満などの生活習慣病も増える一方、これでは病気も治りにくい。現在、代替補完医療として漢方医学が注目されつつある。それは、冷え、汗かき、便秘がち、扁桃もち、などといった西洋医学では扱えないような「体質」を詳細に観察し丁寧に個別に対処していくという特徴を備えた医学だからである。漢方医学は科学的検証によって、その効果が証明され、新しい作用も明らかになりつつある。ただの古くさいだけの医療ではないのである。

 

 

 

 

皮膚は内臓・心の鏡

 病の応は体表に現る」というのは古代中国の名医、扁鵲(へんじゃく)が言った言葉とされる。現代医学では各臓器はそれぞれ独立したものとしてとらえる。皮膚も1つの臓器として考え治療する。しかし、暴飲暴食によって胃腸が弱っていたり、精神的なストレスを負っている患者の皮膚疾患が治りにくいことはよく経験することである。皮膚の強さ、これは「気」というものが担っており、漢方医学では胃腸の弱りは「気(き)虚(きょ)」、ストレスは「気滞(きたい)」を生み出し大いに皮膚に関係してくるのである。気を補う生薬の代表は人参。江戸時代、出雲の国の大根島でも栽培されていた。皮膚漢方医は、皮膚病を繰り返したり治りにくい患者に対し、人参に数種の生薬を組み合わされた処方、補中(ほちゅう)益(えっ)気(き)湯(とう)や加味帰脾(かみきひ)湯(とう)などを使用することがしばしばある。皮膚を目標として使われることは少なかったこれらの処方が効くのは、生活習慣の乱れや社会環境のストレスで、疾患の病態が変化してきたからだとも言われる。丈夫な体作りには何をおいても食事が大事である。魚・野菜中心の粗食の和食、腹八分目、薄味、皆で楽しく、感謝して、よく噛んで食べること。この指導ができる医者こそよい漢方医だと私は師匠から教わった。