保健の窓

高齢者の呼吸器感染症(肺炎)と予防

鳥取市立病院内科 谷水將邦

―1.特徴について-

呼吸器感染症(肺炎)は日本人の死因の第4位に位置し、全体に増加している。社会環境の整備、食生活の向上、抗菌薬の進歩により、乳幼児の肺炎による死亡率はここ数十年の間に激減したにもかかわらず、高齢者ではむしろ増加傾向にある。肺炎全体で死亡する人の約90%は65歳以上であり、肺炎の主体は高齢者であると言える。

高齢者肺炎の特徴は、①一般成人の肺炎に比較し、症状が緩やかに現れ、発熱、咳、痰など肺炎に伴う症状があまり顕著ではなく、意識障害を呈するものが25%程度ある。また、検査所見でも白血球数、CRP(急性炎症反応)の上昇が認められない場合もあり、胸部レ線の陰影も典型的でなく、特に合併した脱水により陰影が出現しにくいといったことがある。これらの非定型的な臨床症状・検査所見にて肺炎の早期診断が困難なことがある。

②脳血管障害や胃食道逆流症の合併が多く、本人が気付かないままに胃液や口腔内雑菌の誤嚥を繰り返し、肺炎が治りにくくなる。

③加齢や糖尿病等の合併で、感染防御の免疫能(気道粘膜の粘液線毛系、免疫グロブリン産生、好中球・肺胞マクロファージの貪食殺菌能)の低下があるため、肺炎が重症化しやすい。

④心疾患や肺気腫等の慢性循環呼吸器疾患の合併が多く、肺炎により呼吸・心不全に陥りやすい。

⑤各種の介護施設や病院に入所している高齢者は、院内肺炎に感染することがある。この場合、耐性菌(MRSA、緑膿菌)の頻度が高く、治りにくい。

⑥肺癌をはじめとした悪性腫瘍が潜んでいる可能性がある。今後、これら高齢者の肺炎の特徴を把握し、治療や予防に生かし、少しでもこの状況を改善することが必要と考えられる。

―2・治療と予防について-

高齢者の呼吸器感染症(肺炎)の治療は、まず、前回で述べたような高齢者肺炎の特徴に留意して診療にあたることが大切である。そのことが、高齢者肺炎の早期診断に結びついたり、適切な抗菌化学療法を行う上で大切な、起炎(炎症を引き起こしている)菌を推定したり確定することに役立つ。一般成人と同様に高齢者肺炎においても、抗菌化学療法が治療の根幹をなしているが、高齢者では腎機能の低下や多種多様の薬剤を服用していることが多く、そういった患者においては薬物代謝や排泄機能が低下しており、抗菌剤の投与量や他薬剤との相互作用を考慮し、副作用の発現阻止に最新の注意を払う必要がある。また、抗菌剤投与以外にも各種補助治療をきめ細やかに行うことも重要である。

すなわち、①栄養管理、②呼吸管理(酸素吸入、場合によっては人工呼吸)、③基礎疾患や合併症(脱水に対する十分な補液等)に対する治療、④去痰のための薬物・吸入・理学療法、⑤呼吸筋疲労の予防(低P、K等の電解質補正、テオフィリン投与)である。肺炎の予防としては、うがいの励行、安静、保温、栄養・水分の補給が大切である。また、肺炎につながりやすい上気道炎(感冒)の早期の治療。肺炎を高率に合併しやすいインフルエンザ、起炎菌として頻度の高い肺炎球菌に対するワクチン療法も重要である。

前回で述べたように、特に脳血管障害や胃食道逆流症の患者は、本人が気付かないままに胃液や口腔内雑菌の誤嚥を起こすことで肺炎になりやすい。これらを合併する高齢者では、口腔ケア、脳血管障害の予防薬(抗血小板薬等)投与、咳反射を改善する薬(ACE阻害剤やアマンタジン等)投与、胃食道逆流症の治療薬(PPI・H2ブロッカー等の制酸剤、消化管運動改善剤)の投与が重要である。