保健の窓

高齢者に多い皮膚疾患~痒み・湿疹・腫瘍・褥瘡を中心にして~

かわぐち皮膚科院長 川口俊夫

 

高齢になってきますと、全身の臓器に衰えが生じてきます。皮膚は外表にありますが皮膚も一つの臓器で、加齢による疾患が生じてきます。今回の健康講座では皮膚の老化に関連して高齢者に多い皮膚疾患についてお話し、スキンケア、疾患予防、治療などをお話ししたいと思います。

高齢者の皮膚変化には1)皮膚の器質的変化(皮膚を構成する細胞、線維、血管などの性質の変化)2)皮膚の機能的変化 3)運動機能の障害に伴う変化に分けられます。

1)皮膚の器質的変化

加齢とともに皮膚を栄養する血管系にも変化が生じます。下肢は心臓から遠く影響を受けやすく、動脈が変化しますと閉塞性動脈硬化症、静脈が変化しますとうっ滞性皮膚炎や下腿潰瘍が生じやすくなります。また、顔などの日光を浴びやすい部分では皮膚の良性、悪性腫瘍が生じてきやすくなります。

2)皮膚の機能的変化

1.角層機能:皮膚の最外層にあり垢となって落ちる部分ですが皮膚を守る上で大切な役割をもちます。若年者に比べて水分保持機能が低下してくることにより、冬季には皮膚は乾燥しかさかさし、乾皮症とそれから生ずる痒み・湿疹が生じてきます。

2.その他の器官:皮脂の分泌量の低下、発汗低下により夏季でも皮膚が乾燥してくることもありますし、体温調節がうまくいかず熱射病になりやすいのも高齢者の特徴でもあります。また、感覚機能(神経系)例えば痛覚・触覚が低下しあんかなどによる熱傷、圧迫による褥瘡などの皮膚障害が深くなりやすくなります。

3.免疫の低下、異常:細菌・ウィルス・真菌などの感染症が生じやすくなります。

3)運動機能の障害に基づく変化

基礎疾患が多くなり運動が制限され、座位や臥位で過ごす時間が長くなり臀部の皮膚が厚くなる皮膚病や褥瘡が多くなります。

以下皮膚疾患をあげて述べてみたいと思います。

先週に続いて皮膚の老化により生じ易くなるお話しをします。

高齢者の湿疹

皮脂欠乏・乾燥に基づく湿疹が特に下腿に生じやすくなります。またこの状態から貨幣状皮膚炎と呼ばれる一見タムシに似た湿疹に移行していくのもよく見られます。その他皮脂の性質異常による脂漏性皮膚炎と呼ばれる湿疹が頭部・顔面・耳介に生じやすくなります。その他かぶれである接触皮膚炎では寝たきりの方におむつ皮膚炎が生じ易くなります。症状の程度に合わせた外用治療を要します。

腫瘍

良性の腫瘍と悪性の腫瘍があります。皮膚の老化による良性の脂漏性角化症(老人性の疣贅=いぼ)が最も多いのですが悪性腫瘍に似ることもあります。また悪性腫瘍も悪性の度合いがおとなしいタイプのものから暴れん坊のタイプまで様々あり手術方法・術後治療が異なってきますので、皮膚科専門医の診察を受け良性であれば放置または冷凍凝固・手術治療の選択、悪性が疑わしい場合は一部切り取って組織学的に検査し治療方針を決めます。

褥瘡

いわゆる「床ずれ」ですが、身体の一 部分に圧迫が加わることで皮膚への血行が悪くなり生じます。仙骨部(腰)・大転子部(臀部の外側;大腿部と腰をつなぐ関節部)・かかとなどに生じ易く、浅いただれの程度から筋肉・骨にまで達して壊死組織(死んだ組織)が化膿して悪臭を呈するまでの段階があり、それぞれ治療方法が異なってきます。褥瘡は予防が一番です。圧力を分散させる用具、体転(体の向きを変えること)の仕方などを知っていただき、褥瘡の段階による治療方法も述べたいと思います。