日本はいま人口が急速に高齢化しています。老人が増え、今後この傾向はますます著しくなってきます。
高齢化社会にあって、日本人がかかる病気もそしてそのために死亡する病気でも、いわゆる生活習慣病と呼ばれる疾患が増えてきました。以前三大成人病と呼ばれたがん、心臓疾患、脳卒中、この三つの病気で日本人死因の60%をしめるにいたっています。
生活習慣病は、以前は成人病と呼ばれていましたが、これらの病気が必ずしも年齢だけに関連するのではなくて、長い間の食事、運動、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣がその発症や進行に深く関与していることが明らかとなりました。生活習慣を見直すことでこれらの疾患を防止しようという意味をもこめて生活習慣病と呼ばれるようになりました。
1867年から1917年にかけて活躍し、当時世界中の医師の尊敬を集めたウイリアム・オスラー先生は『人生とは習慣である。わたくしたちの習慣は、わたくしたちが気づかぬうちに、だんだん成長してゆく。ちょうど病気が進むように』と説かれました。
われわれはともすると、悪い生活習慣をしていて、それが自分で悪いとわかっていても、なかなかそれを是正できないで、知らず、知らずのうちに病気が進行してゆくといったことをやっています。それが生活習慣病です。悪い生活習慣が生活習慣病をひきおこし、いい生活習慣が単に生活習慣病を予防するだけではなくて、いい人生をもたらすのだと思います。
年をとっても元気で働ける。長患いせず、ぽっくり逝きたい。そんな皆の願いを実現するのは実は自分自身の習慣であるのです。
代表的な生活習慣病として知られる高血圧、糖尿病、高脂血症にしても、それ自体が死亡の原因となることは極めてまれです。
これらの病気は動脈硬化を引き起こす原因となるもので、病気というより病気を起こす因子と言ったほうがいいかもしれません。その結果として起きる動脈硬化が脳卒中や心筋梗塞などを引き起こし、死亡や廃疾の原因となるのです。その意味でこれらの因子を危険因子といいます。
危険因子としてはこのほかに、加齢、喫煙、肥満、家族歴などがあります。そして、これらの危険因子はそれ自体が比較的軽くても、危険因子をいくつ持っているかということの方が動脈硬化性疾患を引き起こす危険度がより大きいことが知られています。
狭心症や閉塞性末梢動脈硬化症などのように、自覚できる場合もありますが、動脈硬化性疾患はしばしば、そして多くはそれを自覚できません。そして、動脈硬化巣が突然破綻、血栓の形成によってある日突然脳卒中になったり、心筋梗塞になったりするのです。
歌人で、エッセイスト、評論家の鶴見さんは『講演や書き物など、忙しさの中に忙殺されて身をかえりみることがなかった。自分の人生におけるミスで、ある日、脳卒中になり、社会との交わりが失われた。生まれ変わったら、2度とそんな失敗をしたくない』と仰っしゃっていいます。
災難は突然やってきます。平素の心構え、予防、つまりいい生活習慣を身につけることこそがあなたを災難から守ります。