保健の窓

腰部脊柱管狭窄症

鳥取県中部医師会立三朝温泉病院整形外科 森尾泰夫

姿勢により症状変化

腰の背骨(腰椎)の中には脳と足(下肢)とを連絡する神経(脊髄神経、馬尾神経)が収まっています。高齢になるにしたがって背骨は退行変性(加齢とともに椎間板や椎間関節が変性)をおこし、腰椎の中の神経の通路である脊柱管が狭くなり神経組織が圧迫されることがあります。このため症状が出た状態が腰部脊柱管狭窄症です。

その症状は脊髄神経の圧迫がある場合はお尻、太ももから下腿が痛くてしびれを感じます。ひどくなると筋力も低下します。馬尾神経が圧迫されるとお尻から足にかけてのしびれ、脱力、排尿障害(排尿の勢いが悪くなる)などの症状がみられます。この病気の特徴は背骨の姿勢により症状が変化することです。背骨を真っ直ぐにしたり、後ろへ反らすなどの姿勢で脊柱管の狭窄は増悪しますので長時間真っ直ぐに立っていると症状が悪化し、しゃがみ込んだり、椅子に腰掛けるなどすると狭窄が軽減し症状が緩和します。短い距離の歩行で休まないと歩けない症状(間欠性跛行)は典型症状です。手押し歩行車を押して歩くことが苦痛でないのは前屈みの姿勢で腰の脊柱管狭窄が軽減するからです。

次回は腰部脊柱管狭窄症の診断と治療をお話しします。

腰部脊柱管狭窄症の診断と治療

腰部脊柱管狭窄症の診断は前回お話ししたような症状がある場合、レントゲン検査、MRI(磁気共鳴画像)を行えば容易です。下肢の動脈が詰まるために起こる閉塞性動脈硬化症でも下肢痛で歩行が難儀になりますので下肢の動脈が触れるかどうかも必ず診ておきます。

治療は姿勢により症状が変化しますので症状を楽にする姿勢を知ることから始まります。疼痛に対しては消炎鎮痛剤、しびれに対してはビタミンB12、プロスタグランジンE1製剤などの薬剤が有効です。下肢の疼痛が強い場合は硬膜外ブロック、神経根ブロックなどの注射治療もあります。歩行距離が100m~200m以下となると手術にて神経の圧迫を取り除く治療も選択肢となります。排尿障害、会陰部のしびれ、スリッパが脱げやすくなるなどの筋力低下がある場合や、激烈な痛みが薬や注射で改善しない場合は手術をお勧めします。神経の圧迫が高度となり、それが長期に及ぶと神経が傷み神経の伝導性が失われ再び神経の伝導性が回復しないこともあります。主治医の先生と症状についてよくご相談され、まずは薬物治療で経過をみて下さい。急ぐ必要はありませんので手術を考えるような症状がでるまではゆったりかまえて治療を続けてください。