糖尿病は生活習慣病の代表例で、その多くは過食、肥満、ストレス、運動不足などが原因で発症してきます。最初のうちは自覚症状が乏しいため、どうしても治療を怠りがちになりますが、血糖のコントロールが悪いと眼にもいろいろ病気がでてきます。眼の回りの筋肉に麻痺が起これば、上眼瞼が上がらなくなったり、人や物が二つ見えたりします。視神経に循環障害が起これば、視野が狭くなったりします。しかし、最も深刻なものは、視力を損なう糖尿病網膜症です。
糖尿病網膜症による失明は年々増加しており、今日では失明原因の第1位です。年間約3000人の方が、糖尿病が原因で視力を失っています。失明の危険性のある増殖糖尿病網膜症の患者数も30万人を越えていると推定されています。決して他人事ではありません。
もちろん血糖のコントロールが良ければ、網膜症は簡単には発症しません。しかし、血糖のコントロールが悪いと、糖尿病発症後7~8年もすると網膜に毛細血管瘤や出血がみられるようになります。さらに進んで網膜の細血管が閉塞する時期になると、それを補うように網膜上に新生血管がでてきます。新生血管がいったん生まれると、それを足場にして眼内の硝子体(しょうしたい)腔に出血が飛び散ったり、網膜が剥がされて視力が極度に低下します。
この段階までくればさすがに眼科を受診し、糖尿病網膜症の診断を受けることになるでしょう。残念ながらそれでは遅いと思います。糖尿病網膜症は治療を開始する時期が早ければ早いほど、治療は容易です。しかも十分な効果が期待できます。網膜症が悪化してからでは、治療が大変になるばかりでその効果にも限界があります。
眼科で行われる治療は、レーザー光凝固と硝子体手術です。レーザー治療は外来で点眼麻酔で行います。血管が閉塞し、虚血に陥った網膜を凝固することで、新生血管の発生を予防します。レーザー凝固はまさしく網膜の火傷ですから、一度にたくさんは打てません。大火傷になります。可能ならば100発程度を数カ月の間隔で打ちたいものです。レーザー治療は数年~十数年にわたることも珍しくありません。2~3回打ってしばらく打たないでいると、治療が終わったと誤解して受診が途絶える方があります。数回で終わるはずがありません。最終的に2000~3000発打つとすれば、単純計算でも20~30回のレーザー治療が必要です。
レーザー治療が適切な時期に始まれば、硝子体手術に至ることは少ないと思います。硝子体出血がいつまでも吸収されなかったり、網膜剥離が出現すれば、硝子体手術の出番です。硝子体手術により硝子体腔の出血を除去し、原因となった新生血管を取り除くことができます。網膜剥離があれば網膜も復位させます。単純な出血であればよい視力が期待できますし、網膜剥離があっても網膜が復位すればそれなりの視力が残ります。しかし、硝子体手術となれば入院が必要です。術後にうつ伏せの体位を強いられることもあり、大変です。レーザー治療だけで網膜症を沈静化させることができれば、それがなによりです。
糖尿病網膜症ほど、早期発見、早期治療があてはまる疾患はありません。糖尿病の方は主治医の先生に指示されなくても、進んで眼科を受診して下さい。眼底に異常がなくても、年に一回は必ず眼底検査を受けて下さい。眼科を受診されなければ、治療を始めることができません。