保健の窓

睡眠時無呼吸症候群―いびきと無呼吸―

藤井政雄記念病院院長 星野映治

 

睡眠中に呼吸が止まることを睡眠時無呼吸と言います.眠っているので本人は気付きませんが,たいてい,いびきを伴います.いびきは,のどのあたりが閉塞して,呼吸がしにくくなり,音をたてるものです.睡眠中は,筋肉の力が低下していて,のどを広げる筋力も低下しており,あおむけに寝ている場合,舌根が沈んでのどを狭くするのです.こうした上気道閉塞を主徴とするものを閉塞型無呼吸と言います.ほとんどの睡眠時無呼吸は,このタイプです.のどが閉塞しているにもかかわらず,呼吸しようと努力しているので,胸と腹の動きが逆転します.完全に閉塞すると,呼吸は止まり,無呼吸となりますが,閉塞が不完全だと,いびきとなります.となりに寝ている人が,あまりのうるささに一階と二階に別れて寝ている場合もあります.いびきが止まって静かなときにこそ,呼吸が止まっているかも知れません.

睡眠時無呼吸の定義は,口と鼻からの気流が10秒以上停止するというものです.なかには1分あるいは2分と長い場合もあり,まれには,眠っていて気付かぬうちに呼吸が停止したままとなり死亡する例もあります.通常は,無呼吸では覚醒しやすいことが脳波で確かめられています.夜中に時々目が覚めると言うことです.

症状はいびき,日中の眠気,不眠,夜間頻尿,起床時の頭痛,知的能力や集中力の低下がありえます.合併症としては,高血圧症,冠動脈疾患,脳血管障害,心筋梗塞などがあります.昼間の眠気による交通事故の発生率は数倍とも言われます.また,睡眠時無呼吸症候群では,寿命が短かく,重症度により,治療対象となります.精密検査で1時間に20回以上の無呼吸が治療の目安です.

睡眠時無呼吸症候群の治療には,他の疾患と同様に,原因を探る必要があります.閉塞型の場合の原因としては,扁桃肥大,アデノイド,肥満による上気道狭窄,上気道筋の緊張低下による舌根沈下などがあります.閉塞型以外に,胸部と腹部の,呼吸をする動きが止まるタイプがあります.高齢の方や,脳血管障害,心不全の場合,呼吸が大きくなったり小さくなったりするのが,見ていると分かることがあります.そうした,原因を知ることが重要ですが,睡眠時無呼吸症候群の大部分は閉塞型であり,つまり,睡眠中に上気道が閉塞することが機能的な原因であることから,閉塞を取り除く治療が中心となっています.

一般的に言えば,体重減量療法,持続陽圧呼吸療法,歯科装具,外科手術,薬物療法が挙げられます.このうち最も基本的なのは,肥満の解消で,これで睡眠時無呼吸が消えてしまう人があります.肥満の人はいびきをかきやすく,また,無呼吸も生じやすくなります.現在の主流は,持続陽圧呼吸療法です.鼻を覆うマスクを付け,そのマスクに,装置から空気を送り込みつづけ,マスクの一部の狭い隙間から空気を逃がし,マスクの中を陽圧とし,鼻腔と口腔も陽圧に保つ方法です.この陽圧が舌根沈下などでの上気道閉塞を阻むので,いびきも無呼吸も減ります.これは保険適応になっています.歯科装具は,下あごを少し前に突き出すことによって上気道を広く保とうとするもので,突きだした状態で歯形をとり,睡眠中にそれを噛んでいる方法です.自費です.外科治療としては,軟口蓋を切除して,広くする方法もありますが,一般的ではありません.扁桃が大きい場合は,耳鼻科に相談すべきでしょう.