大気中に放出されたフロンガスなどにより、地球を取り巻くオゾン層の破壊が進行し、深刻な環境問題となっています。オゾン層は生物にとって有害な紫外線を吸収してくれますが、オゾン層が減少すると地表に届く有害な紫外線が多くなり、皮膚癌の発生が増加するのではないかと心配されています。現在日本で皮膚癌が原因で死亡される人は、肺癌、大腸癌、胃癌などの癌で死亡される人よりはるかに少ないです。しかし、皮膚癌はじかに眼でみえる場所にでき、進行すれば形がくずれたり悪臭を放つことも多いので、本人や家族にとって悲惨な結果となることがあります。
皮膚は主に角質をつくる角化細胞からできています。メラニン色素をつくる色素細胞、免疫に関与する細胞、知覚などに関与する細胞などもあります。また、毛嚢や脂腺、汗腺などの皮膚付属器や血管や神経、あるいは線維成分などもあります。これらの細胞や器官のいずれからも皮膚癌は発生しうるので、ひとことで皮膚癌といってもたくさんの種類の癌があります。
癌だと気づいているかいないかは別として、大部分の人はかなり前から自分の皮膚の異常に気づいています。皮膚癌の症状は様々です。たとえば、「単なるシミや湿疹と思っていたものが実は前癌状態や皮膚癌だった。少し色の濃いホクロと思っていたら癌だった。キズの治りが遅いと思っていたら癌だった。」などということがあります。癌の治療はいうまでもなく早期発見と早期治療です。シミやイボが癌だとは思わず放っておいたため、病院に受診した時には手遅れということがあります。たまには自分の皮膚をよく見て、変わったシミやイボができていないか調べてみてください。
代表的な皮膚癌として、基底細胞癌、有棘細胞癌そして悪性黒色腫があります。
基底細胞癌は、高齢者の顔面に好発します。典型的なものは黒いイボの様にみえるのでホクロと間違われることがあります。胸部や腹部にできた場合はシミや湿疹の様にみえることがあります。基底細胞癌が転移することはめったにありませんが、放置すれば皮膚が破壊されて骨に達する深い傷になることがあります。
有棘細胞癌は皮膚の角化細胞ががんになったものです。瘢痕や慢性炎症が続く病気からできたり、また老人性角化症、ボーエン病など前癌状態や表皮内癌から発生します。傷がなかなか治らず徐々に盛り上がってきたり、悪臭があるときには有棘細胞癌を疑ってみる必要があります。
悪性黒色腫はホクロのがんとして恐れられています。日本人では悪性黒色腫は足の裏によくできるので、足の裏のホクロをみつけて心配になり病院に受診される人がよくあります。形の対称性、辺縁の状態、色の濃淡不整の有無、大きさなどを目安に診断しますが、黒くない悪性黒色腫もあり、診断が難しい場合も少なくありません。
その他、頻度は少ないものの、乳房外パジェット病や脈管肉腫などのがんもあります。乳房外パジェット病は主として高齢者の外陰部に生じ、湿疹やたむしと間違えられることがあります。脈管肉腫は主として高齢者の頭部か額部に生じます。頭を打った後いつまでも赤みがひかないときには要注意です。
がんが疑われると、皮膚の一部をとり顕微鏡による組織検査がおこなわれます。皮膚の採取の際に局所麻酔を使用しますので検査を怖がる人がありますが、正確な診断のために必要な検査ですので恐れずに受けてください。