この度、「増えつつあるうつ病の理解と対応について〜高齢化社会における心の健康の増進を目指して〜」と題した講演をさせて頂きます。 現代において、うつ病は増加の一途を辿っており、ある試算によれば、未受診の方を含めると1年間のうちにうつ病になる方は250万人に上ると言われております。 「新型うつ病」と俗称される、厳密にはうつ病ではない、若い世代のうつ状態の増加がしばしば報道されますが、高齢化が進む社会においては、老年期のうつ病へも理解を深め、予防に対する意識を持ち、治療の機会が損なわれないように気をつける必要があります。 精神疾患は、「心」の病気か、「脳」の病気かに大別されます。若年者の場合、前述の「新型うつ病」のような「心」の水準での病気(=病気というより悩みの状態)も多いですが、老年期のうつ病は、「脳」の機能の乱れを巻き込んだ、重篤な病的状態であることが珍しくありません。「心」の病気であれば、少しでもうまく悩み続けられるように援助がなされる必要がありますが、「脳」という臓器の病的状態であれば、薬物療法が速やかに開始される必要があります。
うつ病の症状としては、気分の落ち込み、興味・関心の減退、食欲の低下、不眠などが典型的です。気分の落ち込みが強く自分を責める気持ちが極まると、自殺が生じます。 老年期のうつ病は、重篤な病的状態であるにも関わらず、表面上は重く見えにくいことがあるという特徴があります。すなわち、笑顔が見られ、悲しくなさそうに見え、いつも通りに行動できているように見えることもあります。一方で、身体の不調に関する訴えが増える、不安げでそわそわしている、などは老年期のうつ病で目立ちやすい症状です。また、高齢者がうつ病になると、思考力の低下から、あたかも認知症になったかのように見えることもあります。 老年期は、身体的健康の喪失、配偶者の喪失、など複数の喪失感(喪失感は脳に強いストレスを与えます)が体験されやすい時期です。老年期のうつ病の予防のためには、高齢者の方々のそういった心性が周囲により見守られる必要があります。また、生活習慣病(糖尿病など)や他の身体の病気がうつ病発症の危険性を高めると言われており、運動習慣や食習慣、身体疾患の管理も、うつ病を予防する上で非常に重要になってきます。