保健の窓

タバコと増えている肺がん

鳥取大学医学部附属病院呼吸器内科 清水英治

 

平成13年のがんによる死者は30万人で、その中でも肺がんは5万4千人と首位を占め、近い将来に10万人を越す深刻な事態が予測されています。なぜ、こんなに肺がん死が増えているのでしょう。最大の原因は第二次世界大戦前後の日本社会にタバコ喫煙の習慣が広まり、定着したことです。次に肺がんの悪性度が高いことです。肺がん罹患者に占める死亡者の割合は約85%であり、胃がんの47%、大腸がんの37%と比較し高率で治り難いのが特徴です。

タバコ煙中の発がん物質を長期間、肺に吸入することにより正常の肺が遺伝子変化を起こし肺がんは発生します。ではどれぐらいタバコを吸えば肺がんになるのでしょうか。一日の喫煙本数に喫煙年数を乗じたものを喫煙指数として肺がんに罹り易さの指標として用います。一日20本のタバコを30年間吸えば喫煙指数は600となります。タバコを吸わない人が生涯で肺がんに罹る率は100人に1人ですが、喫煙指数が800を越える人では6人に1人が肺がんに罹ります。

タバコ喫煙では喫煙者だけではなく周囲の非喫煙者にも影響を与えます。タバコ煙にはフィルターを通過した主流煙とフィルターを通過しない副流煙があります。副流煙は主流煙に比べて発がん物質が5倍から20倍ぐらい多く含まれています。タバコを吸わない人が周りのタバコ煙を吸うことを間接喫煙と言いますが、間接喫煙は発がん物質の多い副流煙を吸うことを意味します。喫煙者の配偶者が肺がんに罹りやすくなることはよく知られています。

急増する肺がんを減らすために、喫煙に対して寛容な日本社会の変革が急務です。

前回は肺がんが近年急増し、最大の原因がタバコであることをお話しました。今回は肺がんの予防と治療についてお話します。

がんの予防にはがんの発生を防ぐ一次予防と早期発見早期治療し、がん死亡を防ぐ二次予防があります。肺がんの一次予防には禁煙、アルコール飲料の制限、緑黄色野菜の摂取、適正な運動などがありますが、禁煙が最も重要です。喫煙には習慣性があり禁煙しようとしてもなかなかうまくいきませんが、禁煙外来や禁煙補助剤を利用するのも一つの方法です。

肺がんの二次予防には肺がん検診が有効です。市町村単位で年1回の肺がん検診が行われています。40歳以上の男女全員が対象で、全員に胸部X線検査を行います。1)喫煙指数(喫煙本数×喫煙年数)600以上で50歳以上の人 2)最近半年以内に血痰(痰に血が混じる)のあった人 3)その他、肺がんに罹りやすいバックグランドのある人(アスベスト、クロム関連従事者、塵肺、間質性肺炎、肺気腫に罹患している人など)には胸部X線に加え喀痰細胞診検査も行います。咳が長く続く、痰に血が混じるときは検診を待たずに呼吸器専門の医療機関で診察を受けて下さい。

治療については、早期の肺がんは外科手術が有効です。進行した肺がんには抗がん剤や放射線が使われます。また、最近では副作用が少なく効果の高い分子標的治療薬が開発され、近々日本でも使用が可能となります。分子標的治療薬とはがん細胞に特徴的な変化を標的に働きますので、正常細胞を傷めず、人によっては高い効果を示すことがあります。治療も年々進歩していますので、肺がんに罹っても悲観せずに早めに肺がんの専門治療施設を訪れてください。