72歳の男性です。2月中旬ごろより両方の乳首の中に10円玉大ぐらいが固くなって当たると痛みを感じ、3月ごろに外科医院で診察を受けました。大丈夫だからとの診察でしたが、今日まで痛く、これは何か内臓の病気があり関係しているのではと心配です。良きアドバイスをお願いします。
◎女性化乳房症
お尋ねの男性における乳腺の肥大は、女性化乳房(症)と呼ばれているもので、片方または両方の乳頭の下にボタン型のしこりとして触れるものです。
乳児期、思春期にできるものはホルモン作用による生理的なもので、放置しておいても1年くらいで消失します。問題は成人における女性化乳房症で、発生頻度は0.03%(1万人に3人)ぐらいで、それ程多いものではありません。50~70歳代によく見られます。
しこりの大きさは普通大きめのボタンぐらいですが、中には女性に近い程大きいものも見られます。上着にすれたときに痛みを感じたり、押さえると痛みます。
男性には本来、お乳を出す腺房は発達していませんので、乳管の肥大と周囲組織の増殖によってしこりが出来るわけです。
原因は女性ホルモン等の増加によるものと考えられています。男性は男性ホルモンだけで女性ホルモンは無いものと思われがちですが、実際には両方のホルモンが分泌されています。年をとると男性ホルモンの分泌が低下して、相対的に女性ホルモンが優位になり、女性化乳房症が発症してくるわけです。このような無害な生理的な女性化乳房症が大部分ですが、中には病的なものがあり、注意しなければならないものがあります。
病的な女性化乳房症には次のような原因があります。
(1)男性乳がん(片側性で固い)
(2)脳下垂体、副腎(じん)甲状腺、睾丸(こうがん)の腫瘍(しゅよう)
(3)他臓器のがん、特に肺がん(ホルモンを分泌)
(4)栄養失調、糖尿病
(5)肝機能の障害(肝臓で女性ホルモンが壊されないため血液中の女性ホルモンが増加)
(6)薬剤の副作用。強心剤、抗結核剤、利尿剤、高血圧薬剤、胃潰瘍剤、前立腺剤などいろいろな薬剤によって引き起こされるものもあります。
従って病的なものでないという除外検査が必要になります。女性化乳房症をひきおこす常用薬剤の有無、頭部、胸部X線写真、肝機能、尿検査、ホルモン検査などを行って生理的なものであるという確証が必要になります。
治療については生理的なものは放置しておいても1~2年で自然治癒しますし、男性ホルモン剤の週1回の注射を4、5回すれば縮小します。病的なものは原因の治療が必要です。いずれにしても初老期はいろいろな病気の出やすい時期ですので一応原因をよく確かめておくことが必要です。
(智頭病院院長・神波澄幸)