健康ア・ラ・カルト

【8)内分泌疾患】  8)甲状腺機能亢進症の妊婦に及ぼす影響

質問

26歳、女性。甲状腺機能亢進症の診断を受け、お薬(メルカゾール1日1錠)を服用しています。いまは自覚症状もほとんどなく、検査成績も落ちついていますが、調子がよくても内服はずっと続けなければならないのでしょうか。また近く結婚を考えております。病気そのものや、薬剤による妊娠、出産への影響はいかがでしょうか。教えて下さい。

回答

◎万全の治療で薬物の影響は著しく減少

まず、甲状腺機能亢進症の薬物(メルカゾール)服用により、自覚症状もなくなり、検査成績も正常になったのに、まだ薬物を続ける必要があるのかという疑問にお答えします。治療により前述の状態になったということは、それまで高値であった血中甲状腺ホルモンが、ほぼ正常になったことを意味しています。

ここで大切なことは、血中甲状腺ホルモンが正常値になっても、必ずしも甲状腺機能亢進症が完治したとはいえないという事実です。この病気の方には、正常者にはみられない病的な甲状腺刺激物質が存在し、これが甲状腺を刺激して過剰に甲状腺ホルモンが産生されるのです。薬物治療により血中甲状腺ホルモンが正常になっても、この物質が消失しなければ完治したことにはならず、薬物を中断すれば、再び血中甲状腺ホルモンは増加するでしょう。

この病的刺激物質が体内から消失する条件の一つは、薬物治療により、血中甲状腺ホルモンを一定期間正常に保つことであります。このことのために、ある程度長期間薬物の服用が必要となるのです。薬物中止の時期は、この病的刺激物質の消失を確かめ、臨床所見と合わせて総合的に決めなければなりません。

次に、この病気および薬物の妊娠、出産に与える影響について説明します。甲状腺機能亢進症の方の流早産および妊娠中毒症の発生頻度は、最近患者管理の進歩と万全の治療で著しく減少しています。あまり深刻に心配してはいけません。ことに、このご質問の方は、甲状腺機能が改善されており、メルカゾールもごく少量ですので、これらの影響はほとんど問題にならないと思いますが、できれば甲状腺専門医の管理下で妊娠を継続し、出産をなさることがいいでしょう。

最後に、もう一つ、甲状腺機能亢進症が改善された方に出産直後、血中甲状腺ホルモンの増加をみることがあります。多くは一過性で、やがて減少しますが、この現象につきましても、専門医の説明があれば安心されると思います。

(県医師会・安部喬樹)