健康ア・ラ・カルト

【Ⅰ.健康セミナー】  5.健やかな明日へ向けての健康設計

まず、私たちを取り巻く病気、健康問題というのはどういうふうに変わってきたか。今は感染症と言いますが、伝染病がどんどんなくなってきたわけですね。これはいい薬があれば、もうあっという間に治ると。いったん治れば、もうそれで病気に終止符が打たれる、もうそこで治癒ということがもたらされるわけです。

終止符のない病気

ところが、だんだんと病気の様相が変わってきたんですね。脳卒中が少なくなったといっても、まだ今横ばいで多いわけです。さらにがんとか、あるいは心臓病とか、どんどん台頭してきたんですね。がんはともかく、こういう心臓病とか脳卒中を考えていただくと、恐らく治癒ということで、そこで終止符が打たれる病気ではないんですね。つまり一生つき合っていく病気なんだと、うまく病気をコントロールしていくと寿命に影響がないんだという病気です。  どういうことかというと、やはり病気の性格、性質をよく知っておく、そしてどういうふうにそれに対処するか、あるいは病気をよく知ることで、その病気にならないようにするにはどうしたらいいか、これは非常に明快な答えが出てくるわけです。ですが、無理をしたり、あるいはそれはまた明日に先送りしましょうとか、結局は健康づくりを一見やっていそうだけども、やってないというのが現状じゃないのかなというふうに思います。

われわれ日本人の健康をむしばんでいるものは何か。がん、それから脳卒中、心臓病。これに腎不全、あるいは糖尿病が入ってきました。この五つの疾患で死亡の大体60%ですから、われわれの6割の者は、五つの病気のどれかで亡くなるということであります。

七つの注意事項

ブレスローという人が非常に早い時期、今からもう20年以上前に、われわれが健やかに日々を送るためにはどういうことを注意したらいいかというのを七つ挙げたんですね。これは非常に先見の明があって、今でもこれは認められています。1番、適正な睡眠時間。2番、たばこを吸わない。3番、標準体重、適正体重を維持する。4番、過度の飲酒をしない。5番、定期的にかなり激しい運動をする。これは今はかなり激しいというところはなくてもいいと思います。ですから、定期的に運動するというところで考えてください。6番、朝食を毎日食べる。7番、間食をしない。

これでどういうことに取り組まれたらいいかというのが、もう結論が出たというふうに思います。

食塩は10グラム以下に

一つは栄養です。これは厚生労働省がこういうような食生活をされればいいですよという指針を出しております。1日30品目を食べる。それから食べ過ぎに気をつけて肥満にならないようにする。それから、脂肪分の取り過ぎに注意しましょう。動物性の脂肪よりは植物性の脂肪をどうぞ。それから食塩は1日10グラム以下にしましょう。 欧米では6グラムを推奨しています。日本は大体10グラム以下、 できれば8グラムぐらいということで、ずっと減ってきたんですね。そして一時、11グラムぐらいまで減りました。ところが今は残念ながら13グラムになったんですね。

1万歩以上歩いて

それから、次が大事です。家族で取り組みましょう。運動。できれば、いいかかりつけの先生、主治医をお持ちくださいということです。医学的なチェックを受けてからいろいろな運動にお取り組みになられた方がいいと思います。そういう意味でも、何でも相談でき、いろいろアドバイスをくれる先生を皆様の周りにぜひおつくりになられたらいいと思います。

基本的には、いつでもどこでもできるということで、歩くということは大事です。じゃあどれくらいのことを目安にすればいいかといいますと、普通、息が弾む程度、30分ぐらいお歩きくださいと言っています。それから、万歩計をつけていただいて1日1万歩以上を目標にしてくださいと。これは結構、いろいろな計算をしたりしなくても、それから余り負担がかからなくてできる運動だと思います。これが一つの目安ではないでしょうか。

運動しますと、中性脂肪などが減ってきます。それからコレステロールの中でも善玉のコレステロール、HDLコレステロールというのがあるんですけれども、それを上げる作用があると言われています。ですから、ただ体重を減らすということだけじゃなくて、そういう中性脂肪を減らしたり、いいコレステロールを増やしたりして、動脈硬化を予防するということにも非常に今言ったような運動は有効なわけです。

それから、お酒の話。酒は百薬の長といって、お酒をどんどん飲んでおられる方があります。果たしてどこまでが百薬の長の範囲かといいますと、日本酒にして1合、それからビールならば大体大瓶で1本でしょう。ストレスを発散したり、食欲を増進したり、あるいは人間関係を良好にしたりというような側面もありますし、HDLコレステロールを増やす作用もあると言われています。つまり動脈硬化を抑える作用もあると。それから血圧も下げる作用もあるということです。ただし、先ほど言った量に限ります。

さて、たばこはどうかといいますと、どうもがんにも、慢性の肺の病気にも、心臓病にもよくないと。最近問題になっているのは妊婦さんです。早産とか流産の原因になると言われています。それからもう一つ、たばこの煙です。煙を吸い込むわけですね。あれは一酸化炭素がどんどん血液の中に増えます。血液の細胞の中に赤血球という細胞があり、これはヘモグロビンという物質を持っていて、肺から酸素をヘモグロビンにくっつけて体の隅々に運ぶんですね。ところが、一酸化炭素がヘモグロビンにくっつくと酸素がくっつかないんです。ですから酸素欠乏状況が来る。実際にいろいろな能率テスト、仕事の能率テストをやってみると、はるかにたばこを吸わない人の方が上なんですね。ですから、きょうたばこを吸っておられる方、あるいはうちに帰ってたばこを吸っておられるご家族をお持ちの方は、よく相談してみてください。

病気は遺伝と環境

それから、最後に子供たちの健康づくり、これはぜひ皆さんにお伝えしとかなきゃだめです。病気のこと、一つは遺伝であり、一つは環境です。いずれも皆様のご家族の中で子供に受け継がれていくわけです。遺伝は遺伝子から、そして環境はまさに同じ環境の中で生活しているわけです。

それから、子供を取り巻く環境といいますと、テレビゲームだとか、食べるものもいろいろです。お菓子をどんどん食べてます。ポテトチップスを食べてご飯を食べない、ポテトチップス1袋で大体おにぎり3個分だと言われています。だから当然、ポテトチップスを食べてしまったら、ご飯が食べれないんですよね。ですけれども、あれには非常に脂肪分がたくさん入っているわけです。そうすると、もう動脈硬化とか、今は10歳代で心筋梗塞(こうそく)で亡くなる子供がいます。まさに成人病なんです。そう考えてみますと、ぜひ皆様、皆様一人ひとりが健康づくりをされるのも大事です。

それから、ぜひご家族を巻き込んでください、子供さんも。そして、そういう教育を一つ一つ子供さんに授けていってください。それがこれから迎える21世紀を支える彼らに対するわれわれの役割じゃないかというふうに思うわけです。

それから、味覚の基礎も子供のときにつくられます。皆さんが率先して薄味にすると、彼らは苦労しなくても一生その味覚で過ごすことができます。ですから、ぜひ子供さんを巻き込んで、もしそういうような食事をされる場合には、2種類の食事をしないで、みんなで一つの食事を食べるということが大事だと思います。

一生継続すること

もう一度、今まで皆さんが漠然と思っていた健康についての知識、情報を整理してみてください。そして正確な情報に基づいていたかどうかをチェックしてみてください。その上で健康度のチェック、これはぜひ皆様の主治医、かかりつけ医の先生とご相談ください。その上で、これから健やかな人生を送られますよう健康設計をして、そして日々の生活の中に取り入れてください。

それから、継続性、効果を評価しながら、一生継続していくということが大切です。

(自治医科大学地域医療学教授・梶井英治)