健康ア・ラ・カルト

【12)感染症】  5)ハンセン病

質問

38歳、女性。最近新聞紙上に、あるいはテレビを通してハンセン病がよく話題となっております。子供たちからも質問を受けますが、よく答えられません。この病気がなぜこんなに問題となったのか、わかりやすく教えて下さい。

回答

◎差別や偏見、強制隔離も

ハンセン病はらい菌と呼ばれる細菌によって引き起こされる慢性の感染症です。らい菌の感染力は非常に弱く、体の抵抗力の弱ったヒトがまれに感染し、そのうちの一部のヒトだけが発症すると考えられています。しかし、病気が進行しますと、らい菌は好んで末梢神経や低体温の皮膚を侵します。従って、適切な治療薬のなかった1940年代以前に感染・発症した患者さんは、発症部位が顔面、頭部、手足など一目でわかる露出部に集中し、さらに末梢神経麻痺による強い変形や機能障害を生じました。この見かけ上の特徴がハンセン病に強い悲愴感を植え付けてしまいました。

らい菌は、家族間のような濃厚感染でないと他人に感染しないため、明治時代以前にはハンセン病は家族性遺伝病と考えられていました。また、いろいろな宗教がハンセン病を「業病」とか「天刑病」として捉え、布教にも利用していました。このような長い歴史が人々に差別や偏見を生じさせたともいわれています。

1873年(明治6年)に、ハンセン病の原因としてらい菌が見つかり、この病気がヒトにうつる可能性のあることが明らかになると、次第に社会はこの病気に罹患した者を、家族からあるいは故郷から追い出し始めました。こうして浮浪する患者さんが明治時代の大きな社会問題となっていきました。このような状況のもとで国によるハンセン病対策が開始され、1907年に法律が制定されました。この法律は社会を追われた患者さんたちを救済する意味ではよかったのですが、やがて強制隔離の方向へと進む原因になったのです。患者さん本人の意に反して、家族と遮断され、故郷を追われて、各地の療養所へ強制的に収容されていきました。

現在、国が問われている問題は、この人権無視の強制隔離政策と、1950年代以降の、新しい治療薬による感染症治癒の後にも強制隔離が続いたことだろうと思われます。1996年になってやっと「らい予防法廃止法案」が成立し、隔離制度が終わったのです。2000年5月の熊本地裁の判決に引き続く、国の控訴断念で強制隔離政策に対する国家賠償が決まりました。

長い間の差別や偏見と強制隔離政策に苦しんできた患者さんたちのことを今一度思い巡らす機会にして欲しいものです。

(鳥取大学医学部細菌学・田中吉紀)