健康ア・ラ・カルト

【Ⅰ.健康セミナー】  2.健康診断でみつかる肝臓病とその対策

昨年、全国で人間ドックを受けられた人はおよそ264万人、このうち何も異常がない人が15%、大抵の人が何らかの異常で引っ掛かっています。さらに中高年になりますと30%以上の人に肝機能異常が見つかります。このほとんどが自覚症状のない元気な人です。

肝臓は、いろんなタンパク質を作ったり糖分の分解など、体の栄養素の重要な働きをしています。多少の障害があっても、ほとんど症状がないことから「沈黙の臓器」とも言われ、肝臓病の軽い症状を見つけるには、どうしても健康診断のような機会がないと分からないのが現状です。

さまざまな検査法

定期健診の血液検査ではGOT、GPT、γ-GTPの三つの検査が行われています。ドックだと血液の検査、また肝臓の中が見える腹部超音波検査(エコー)、肝炎のウイルスを血液で見るような検査、がんが出来た時に見る検査などが行われています。

健診では肝臓に障害がありますよとか、あるかもしれませんよという程度しか結果が出ないので、もし異常が見つかったら一度精密検査を受けていただきたいです。

健診で見つかる肝臓病

まず第一に多いのが脂肪肝です。これは血液検査やエコーで見つかります。それからエコーを受けると肝血管腫というのがよく見つかります。これは肝臓の中のアザみたいなものです。さらに慢性肝炎(B型肝炎、C型肝炎を含んだ肝炎)が見つかってきます。女性では、原発性胆汁性肝硬変というのが見つかってきます。

(1)脂肪肝

「GOTの値は、正常だったけど、あなたはGPTとγ-GTPが少し高いですよ」とか「エコーをしてみると肝臓が白い」と言われます。普通の人は、腎臓(じんぞう)と肝臓は同じ色の濃さですが、脂肪肝は肝臓が白く見える。これは細胞の中に脂肪が沈着したものです。大部分が、治そうと思えば治ります。

推計では、1,500万人、人口の15%が脂肪肝と言われています。年代別では、男性では20代から40代までの15%が脂肪肝で、50代では20%ぐらい、5人に1人は脂肪肝だということになっています。女性は、60代になってくると多くなります。

脂肪肝は、糖尿病とかアルコールが主な原因になります。対策は、食べる量を減らすことと、大体3分の2ぐらいにカロリーを抑えなくてはいけません。体重が2キロぐらい減るとGPT、γ-GTPは正常化しますので、それぐらいは頑張ってもらいたいと思います。

(2)肝血管腫

血液のGOT、GPT、γ-GTPの値は、全く異常なしでエコーをすると肝臓に白いものが見えてきます。肝機能は正常なので、おそらく肝血管腫だと言いますと心配する人も多いですが、肝血管腫は血管が海綿状になったようなもので皮膚で言えばアザに相当します。

血管腫であれば、症状は全くありませんし、血液の検査をしても正常です。しかし血管腫だと言われて、そのままで良いかというとそうではありません。血管腫だと思ってずっと診てきたけれどがんだったということもありますので、あくまでもきちんと診断をしておくことが大切です。小さいときは、半年か1年に一度は大きさを計ってもらったほうがいいと思います。

(3)肝のう胞

続いて肝のう胞ですが、これもGOT、GPT、γ-GTPは全く異常がありません。しかし、エコーをすると黒くて丸いものが見える。これもなんら問題のない病気ですが、時々のう胞の中に腫瘍が出来ることがあるので、見ておく必要があります。通常の場合は、胎生期に胆汁が流れる管が何らかの関係で詰まってしまったのが原因です。心配ないと申しましたが、ある事例では中が白っぽく写るようになり、袋の内側の細胞が増えてくる肝のう胞腺腫というのがまれにあります。

肝のう胞は、安心なのですが出来たら超音波を受けておくと良いでしょう。大きくなって出血することもあると思って、年1回ぐらいは診察を受けておくといいと思います。

(4)慢性肝炎

頻度的には少ないのですが、100人に1人ぐらいの確率で慢性肝炎が見つかることがあります。慢性肝炎は、GOT、GPTが高いことから見つかることがあるのですが、他にもB型肝炎ウイルスを見つけるHBs抗原が陽性だとか、C型肝炎を探すHCV抗体が陽性で見つかることがあります。慢性肝炎はほとんど症状がなく、血液検査を行ってGOT、GPTが去年の健診のときも引っ掛かったとか、その前も引っ掛かっていたという話でようやく見つかります。1回でも測って話を聞くと分かります。慢性肝炎は、肝臓の組織をとって炎症の程度がどのくらい強いかを調べます。

C型肝炎は、7割ぐらいの人が健康診断や献血で分かります。他の病気で入院したときに分かったというのが10%ぐらい、やはり健診をしないと見つからないようです。肝炎のウイルスは、A、B、C、D、G型などたくさんあります。慢性肝炎には、いろいろな原因もありますが日本の場合はウイルスによるもので、慢性肝炎の7割がC型肝炎ウイルス、2割がB型肝炎ウイルスとなっています。現在の日本では100人に1人か2人、ですから全国に約200万人います。

B型肝炎

B型肝炎ウイルスの場合は出産時に感染することが多く、1986年からお産のときに予防がされ始めて以後ほぼ無くなりました。ほとんどの人が無症候キャリアと言って肝機能は正常です。組織もなんら問題のない人が多いようです。慢性肝炎だと言われたら、ウイルスを持っている人と慢性肝炎の人とは違うのだということを認識していただきたいのです。

気をつけてほしいのは、B型のキャリアでGOT、GPTは正常で何ら問題がないと言われても、血管造影をしてみると造影剤が染まってくるので肝がんだと診断される場合があります。B型のウイルスを持っている人は、持っていない人より、肝がんになる可能性が高いので、肝炎が起こっていないことと、肝がんが出来ていないかを見るために年に1、2回は血液検査やエコーを受けてほしいと思います。

慢性肝炎だと言われた人についてですが、今では良い薬があります。1982年からインターフェロンという注射が使われていますし、昨年11月からはラミブジンという飲み薬も出ました。

C型肝炎

C型肝炎の場合、進行は緩やかですが、B型に比べると肝硬変になる確率が少し高いです。肝硬変になってから肝がんになる確率は高いので、C型はB型より少し積極的に治療したほうがいいと言われています。

キャリアの人はB型の人よりも少し回数を多くして、年に3、4回血液検査を受ける。またウイルスを殺すためのインターフェロンに挑戦してみるといいでしょう。

インターフェロンは風邪に感染すると自分の中で作っているもので、自分の身体の中にもあります。 C 型ウイルスを死滅させるには量が少ないということで、外から注射するのです。熱が出るなどするため使いたくないという人もありますが、確かに熱は出ますが1週間で熱は出なくなります。

以前、C型の慢性肝炎で、GOT、GPTが非常に高く変動している人がありまして、インターフェロンを1カ月使ったらピタッと正常化してしまったという人もいます。C型の慢性肝炎の人は、一度は挑戦してみないといけない治療ではないかと思います。

このような治療をしても時々、がんができることがあります。がんができても最近では治療が進んで来ています。例えば、手術で安全に取ってしまうこともできるようになりました。

最近は、がんだと分かったら皆さんに医者が告知します。昔は隠すことが多かったのですが、最近は言わないとなかなか治療に協力してもらえないために言い出しました。医療技術も発達し、超音波で見える時には、アルコールを入れてたんぱく質を固めるとか、電子レンジのマイクロ波より波長の長いラジオ波で焼いてしまうという治療もされています。

(5)原発性胆汁性肝硬変

中高年の女性でγ-GTPの値が高いと言われる場合、原発性胆汁性肝硬変が見つかることがあります。これは症状はないのですが、多少のかゆみがあります。原発性というのは、原因が分からないことで、胆汁の流れが悪いというものです。肝硬変という言葉がついているのが良くないですが、これは肝硬変ではないです。ほっておくと肝硬変になるという病気です。

ほとんどの人が正常な肝臓ですが、まれに肝硬変になってしまう人もあります。この治療には熊の胆汁の成分(熊の胆)に含まれるウルソデオキシコール酸を飲むとγ-GTPが正常化するというので、世界中の原発性胆汁性肝硬変の人は、ウルソデオキシコール酸という薬を飲んでいます。副作用もなく、安いものです。

生活習慣を変える努力を

健康診断を受ける機会は確実に増えています。ただ、肝臓病を指摘されても自覚症状がないので、ほっておく人も多い。脂肪肝と言われても、あまり生活を変えようとしない。今日の話を聞いて明日から生活習慣を変えるということを心がけて行くのに参考になればと思っております。どうもありがとうございました。

(鳥取大学医学部第二内科教授・村脇義和)