健康ア・ラ・カルト

【12)感染症】  2)食中毒は今

梅雨の季節になり、また、食中毒がささやかれるころとなりました。昨年は腸管出血性大腸菌による食中毒が猛威を奮ったことは記憶に新しいことと思います。

◎原因菌

サルモネラによる食中毒が約350件、患者数約16,300人、病原性大腸菌によるものが179件、12,100人、腸炎ビブリオによるものが292件、5,200人となっています(厚生省まとめ)。サルモネラと病原性大腸菌による食中毒では犠牲者が出ました。

食中毒は食品が原因で起こってくる急性の胃腸炎と定義されていますが、図は一昨年までの食中毒発生件数を示しています。最近5年間では年間400件から600件の食中毒が発生しましたので、昨年の発生件数970件というのは例年の約2倍ということになります。

ただ、昨年の病原性大腸菌による死亡事故で、市民が不安を感じ普段なら病院に行かなかった軽い下痢症状の人も病院を訪れたであろうことも考えなければなりません。1995年までは発生件数が3位であった黄色ブドウ球菌は手洗いなどが徹底されたためか、発生件数は減少しています。

サルモネラや腸炎ビブリオは食品を介して感染し、腸管内で増殖して105~106以上になると下痢が起こってくるといわれています。いずれも、1~3日で回復しますが、ときに、脱水症状が強かったり、心臓に負担がかかったりしてショック症状を起こして死亡することがあります。サルモネラは食肉や卵を介して感染し、腸炎ビブリオは主として魚介類を介して感染します。

◎病原性大腸菌

病原性大腸菌による食中毒は、サルモネラや腸炎ビブリオによるものと比較して、少し変わった点があります。

第一は病原性大腸菌による食中毒にかかると、もうすでに皆さんもご存じのように、普通の下痢に続いて血性下痢が現れます。そしてもっとひどいときには腎(じん)臓傷害や意識障害を伴います。すなわち、下痢を主体としたサルモネラや腸炎ビブリオよりも激しい症状を呈するということです。

第二には大腸菌はもともと健康な人の腸管内に常在しており、消化を助けたり私たちに役に立つビタミンを作ったりしています。いわば、〝良い大腸菌〟といえます。一方、サルモネラや腸炎ビブリオは菌のもつ本質的な性質として下痢を起こす能力が遺伝子の中に組み込まれています。

これに対して、病原性大腸菌の場合は、プラスミドあるいはファージと呼ばれる〝運び屋〟が他の病原菌の遺伝子を運んで来て、良い大腸菌の性質を変えてしまったものなのです。この運ばれてきた遺伝子が作り出す病原因子によって、赤痢のような症状を呈したり、コレラそっくりの症状を呈する病原性大腸菌が出来上がっています。赤痢様の症状を呈する病原性大腸菌の一つが腸管出血性大腸菌O157というわけです。

下痢を起こす細菌として、サルモネラ、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌の他に表に示したようにたくさんの細菌が知られています。それらの細菌はそれぞれ食中毒とどのようにかかわっているのでしょうか? 細菌にはそれぞれ特徴があって、現れてくる症状も少しずつ違っています。原因となる細菌についてより深く理解し、食中毒の予防に役立ていきたいものです。

(鳥取大学医学部細菌学・田中吉紀)