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勤務医の労働者性のポイント
労働基準法の労働者性の判断基準としては、昭和60年に労働基準法研究会報告(以下労基研報告という)が提示した判断基準が行政解釈の基準となり、司法判断にも大きな影響を与えてきました。しかし、約40年が経過した現在、厚生労働省の労働基準関係法制研究会が令和6年12月に発出した文書の中で指摘しているように、これまでの判例、学説をもとに労基研報告の判断基準の「見直しの必要性を検討する」とともに、「個別の職種について、労働者性を判断するに当たって参考となるようなガイドライン」等を提起していく必要があると思われます。そうした最近の動きが、荒木東京大学大学院教授や島田早稲田大学名誉教授によって提起されている、企業内において専門性が高く使用者の個別具体的な指揮命令になじまない職種の労働者の労働者性の判断基準として、「事業組織への組み入れ」を重視する学説です。
一方医師の業務に関しても、注目すべき見解が、令和5年11月に、益原大亮氏編著の医師の働き方改革 完全解説(日経BP)という著作の中で示されました。この著作の中で、勤務医の労働者性に関する裁判例が4例紹介されています。そして、これらの判例を踏まえて、勤務医の労働者性のポイントというものが以下のように提示されています。
1 高い専門性のために、個々の具体的な医療行為の内容について指示されることはないものの、医療機関における基本的な診療方針や診療体制に従って医療行為に従事するという点で、抽象的な指揮監督の下にあること
2 診療日や診療時間は医療機関が決定しており、その診療日時に診療行為を行うか否かについては、勤務医に諾否の自由はないこと
3 あらかじめ決められたシフト(診療日や診療時間)に基づき、医療機関内において診療行為等の業務に従事しており、時間的・場所的拘束性があること
4 報酬について、診療日や診療時間に応じて支払われており、労務対償性があること
最初に触れた労基研報告の判断基準は、指揮監督下の労働および報酬の労務対償性の大きく2つの判断基準に分けることができます。上記の4が報酬の労務対償性に、上記の1から3までが指揮監督下の労働に対応するものと思われますが、上記の1から3までは「診療体制への組み入れ」と総括して表現できるのではないかと個人的には思います。指揮監督下の労働において最も重視されてきたのが、業務遂行上使用者の個別具体的な指揮命令を受けているという判断基準でした。しかし、勤務医の場合、診療行為は医師の裁量に委ねられるところが大きく、使用者から個別具体的な業務指示を受けることはあまりありません。そのため、労基研報告の基準では、勤務医の労働者性に疑念が生じるケースが生じると思われます。上記の1で、抽象的な指揮監督の下にあることという判断基準を提起されたことは、こうした問題を解決するうえで、重要な意義があると思われます。
(今回の担当:医療労務管理アドバイザー 田淵 淳一 社会保険労務士)